絵里子
本当のこととは思えないが、実家の雨戸にミツバチが巣を作ったことがある。
はじめはそれに気づかなかった。やたらと小さな蜂が、庭をぶんぶん飛び回ってるなと思っただけだった。うちには小さな庭があり、近くにはひろいレンゲ畑も広がっていた。
どこからミツバチがやってきたのか、また、なぜこんな雨戸みたいなところに巣を作ったのか、幼いわたしはふしぎでならなかった。
よく観察すると、ミツバチたちは、六角形のおなじみの巣の形のなかに、さまざまな幼虫などを育てているようだった。顔を突っ込んで暗い雨戸をしまってある戸袋から出てくるミツバチを見ながら、
「きゃー、刺される!」
走り回って母に、ミツバチを退治してくれるように訴えた。
母は、困ったようだった。
「ミツバチはね、ハチミツを取れるから、益虫なんだよ」
なんて言うのである。
とはいえ、わたしと妹が、やいのやいのと母をたきつけて、ミツバチと相対することになったのだった。
母は殺虫剤を手にして、戸袋の前に立つ。
わたしと妹も、スプレー缶を片手に、臨戦態勢だ。
「しゅわ~~~」
殺虫剤がまかれると、こりゃたまらんとばかりにミツバチたちが、戸袋からわーっと出てきた。
雨戸がすっかり蜂の巣でいっぱいになっていて、つかいものにならなくなっている。これじゃあ、台風が来ても役には立たないだろう。
わたしは、次 々と死んでいくミツバチを見ながら、少し胸が痛くなっていた。
特に害を与えるわけでもなかったのに、やりすぎちゃったのでは?
自分に危害があるかも、というだけで、相手を殺すなんて、ひどすぎるかもしれない。
ミツバチたちがコロコロ死んだあとには、蜂の子が残されていた。
「蜂の子は、料理できるけど、殺虫剤をまいたからやめとこうね」
母は、蜂の巣を取り除きながらそう言った。
いまでも、台風の時期になると、雨戸に巣を作ったミツバチを思い出す。
ごめんね、ミツバチさん。
そのたびに、心のなかで謝るわたしなのである。
(完)
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