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ミツバチと共に90年――

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蜂蜜エッセイ応募作品

勇気のひと「プチっ」

森雅也

 

 私は飛騨高山の出身である。しかし、父親の仕事の都合で高山には3年ほどしか住んでいない。幸い、母方の祖母や叔母がいるので、1年に数回、墓参りを兼ねて高山を訪れている。
 小学生の時である、高山から住んでいる場所に戻る際、高山線で特急ひだを利用し、名古屋で乗り継ぐのであるが、その待ち時間にお土産屋を覗いていた。栃の実せんべいや甘甘棒(かんかんぼう)など、おいしい伝統的なお菓子がたくさん並んでいた。ふとそのお菓子の横を見ると、瓶詰の佃煮のようなものが置いてあった。手に取って中身を見ると、それは「蜂の子」であった。白い幼虫、さなぎ、羽化しかかっている蜂のような物体、さまざまな形状の「虫」が瓶の中に詰まっている。
 「これって、何?」すかさず母親に聞くと、「蜂の子ども。昔はよく食べたけど今は食べないわね。」えっ、食べたの?私の脳に衝撃が走った。えっ、食べれるの?あの時以来、蜂の子の瓶詰のシーンが頭から離れなかった。
 それから四十年が経った。私の現在の勤務場所は、かなり山の奥にある。サル、シカ、イノシシの獣害に悩まされた山村にある。ここの従業員は全員食堂に集まって昼食を食べる。従業員の中には地元の人も多いので、自身の家で取れた野菜や罠にかかったシカ、イノシシの肉などが、季節によって、みんなにふるまわれたりする。
 ある日、各テーブルに白い食器が配られていた。いつものように肉か野菜と思っていたが、よく見ると、白いものが蠢いていた。蜂の子である。あの高山駅での四〇年前の思い出が甦ってきた。
 食べる気が全くなく、白い器を見つめながらげんなりしていた私に、となりの六〇歳のおじさんが語ってくれた。「ばあちゃんが目が良くなるから食べろ食べろって、小さい頃から、言われたんよ。でもな、わしは食べれんかった。何回も言われたけど、食べれんかった。あの時、ばあちゃんの言うことを聞いておけば、こうはなってなかったのにな。」おじさんは緑内障で視力が徐 々に衰えてきていた。眼鏡を取ったり外したりしながら、愛おしそうに器をもって蜂の子を見ていた。そのうち、箸で一つとって口に入れた。「どんな味がするんですか?」私は尋ねた。すると、「グミみたいな触感で、プチっとなると蜂蜜と同じ味の甘い汁がたくさん出るんだよ。」と教えてくれた。
 恐る恐る私もひとつ口に入れる。舌の上で蠢く。飲み込んでしまおうとも思ったが、蜂蜜のような甘い汁をぜひ味わいたくて、プチっと、やってみた。おいしい。ふわーっと、蜂蜜のような甘いにおいと味が口の中を支配した。おじさんは、ずっと私の表情を観察していたようで、「な、おいしいやろ。おいしいだけでなくて、目もよくなるんやて。」私は、2つめ、3つめもプチっとやさしく噛んだ。おいしい。
 私もそろそろ白内障が入ってきている。おじさんのおかげ、いやいや蜂の子のおかげと私のこの勇気のひと「プチっ」で、少しでも目が老化に打ち勝ってくれるといいなと思う。

 

(完)

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