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蜂蜜エッセイ応募作品

部長のマヌカハニー

ししら

 

 大嫌いな部長だった。
 いつも声が大きくて、その声がフロア中に響き渡る。
 気に入らない事があると、すぐに怒鳴る人だった。
 「おい、調査しているのか! お前らは、何時間掛ければいいんだ!」
 言い方というものがあるだろうと思っていた。
 私の同期も先輩も後輩も、皆、大嫌いと言っている。

 

 そんな、ある冬の時期だった。
会社で風邪が大流行し、皆がマスクをして仕事をしていた時、棚の上に、マヌカハニーの飴が置かれてあり『自由にお召し上がり下さい』と書かれた貼紙がされていた。
「総務課かな。気が利くなあ」
と、皆、喜んで遠慮なく舐めていた。しかし、二週間が経っても、まだマヌカハニーの飴は残っている。

 

 おおっ、まだある! ラッキー! でも、なんで……?

 

 打ち合わせの帰りに他部署の前を通った時、マヌカハニーの飴がどこにも置かれていない事に気が付いた。
ある朝、打ち合わせ準備の為早くに出社すると、大嫌いな部長がマヌカハニーを補充している姿を目撃した。

 

 ああ……、部長からの差し入れだったんだ。

 

 私たち部下が出来る仕事を精一杯頑張っていれば、部長の思いやり溢れるマヌカハニーの飴は、きっとなくならないのだろう。
私はその日、その飴を舐めながら「よっしゃあ!」と気合を入れて、精一杯、仕事に取り組んだ。

 

(完)

 

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