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ミツバチと共に90年――

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蜂蜜エッセイ応募作品

父と蜂の子

足立 京子

 

 父が臨終を迎えたのは、私が小学校五年の夏休みが終わる一週間前だった。結核で長患いの末のことだ。その父から教えられたことは多かった気がする。あれはまだ七、八歳のころだったと思う。「京子、来てごらん」呼ばれて飛んで行くと、父は物干し竿をかかげている。二股の先を見ると大きな蜂の巣が目に入った。弟と妹も聞きつけてくる。「大きな蜂の巣だろう。今から取ってやるからな。みんな少し離れて」「分かった」私は蜂に聞こえないように答える。二歳下の弟と三歳の妹は声を殺して上を見上げていた。父の手にぶれはない。「みんな下がって」初めて目にする蜂の巣はデカかった。こわごわ眺めると、いくつも蜂の子が動いている。衝撃的な光景だったことには間違いない。「どうだ。美味しいだろう。甘いだろう」「蜂の子って食べられるんだ。美味しいね。甘いんだね」これといったおやつも、美味なスイーツも無縁な時代。不気味なカタチよりも、子供たちにとって口にとろける甘美な誘惑だった。父はフライパンで器用に炒って、子供たちに未知の味を教えてくれたのだ。今にしてみれば、たとえ蜂の巣に蜂の子を見つけたとしても、炒ってわが子の口に放り込むことができる親が、どれほどいるだろうかと思う。七十代の今、私の舌は決して贅沢でも豊かでもないけれど、それなりに時代を重ねた複雑な味覚を持ち合わせていると思う。でもストレートに口から胃袋まで届く単純明快な味には遠い。あの日あのとき、最高だったスイーツ。蜂蜜の甘さが口にふと蘇るとき、私は懐かしくあの日を思い出す。

 

(完)

 

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