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ミツバチと共に90年――

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蜂蜜エッセイ応募作品

--無題--

はちべえ

 

 大学の頃、自転車で日本一周を試みた。京都から出発して一路北海道を目指した。その途中で道を間違い、山道に入り込んでしまった。日はどんどんと暮れていくが、一向に目指すべき大きな道は見つからず。途方に暮れていると、一台のトラクターが目の前に止まった。人のよさそうなおじいちゃんが降りてきたので、事情を話すと自転車ごと乗せてくれた。
 「お腹空いてないか」と言われ、ここは長野の山の中でこれから市街まで自転車で行くのは大変だからと一晩私を泊めて下さることになった。着いた先は萱葺きの大きな農家だった。風呂をいただき、着替えのパジャマまで出してくれ、至れり尽くせりの宴が始まった。「何にもないだが」と出された料理はどれもおいしい。その中に見慣れない佃煮のようなものがあった。食べると醤油と共にじんわりと甘みが広がっていく。生まれて初めて感じる甘みだった。おじいちゃんに聞くと「蜂の子だ」と教えてくれた。
 その日はこの蜂の子のおかげか、疲れも飛び、初めての家だというのに我が家のように朝まで熟睡させていただいた。翌朝、お礼を言い、住所とお名前を尋ねたがおじいさんは笑うだけで答えてくれなかった。「大したもてなしもせんじゃってなあ」。その笑顔と蜂の子の味は今も私の記憶に残っている。蜂の子は青春の味である。

 

(完)

 

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