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蜂蜜エッセイ応募作品

母からの定期便

大阪のアン

 

 「お母さんからの小包だよ」
 学校から戻ると、大家さんが部屋まで届けてくれた。
 母は東京の大学に入ることに難色を示していた。
 「だってそうだろう。三度三度の食事はどうすんだい? 洗濯は? 繕いは?」
 自立は、大学を出てからでも遅くはないのではないかと言う。
 「地元の大学で十分に学べるんじゃないの?」
 「母さん、心配するのは分かるけど、18歳といったら、もう大人も同然だよ」
 私は一歩も引かなかった。東京に出るのが目的ではなく、学びたいことを学べる大学が、たまたま東京にあるのだった。
 母に理解してもらわずに、上京するだけの勇気はなかった。一か月の間、毎日説明し説得し、ついには理解してもらった。
 「一つだけ条件がるよ。食事はきちんと摂るんだよ。欠食は絶対ダメ。人生は健康が資本なのだから」
 まるで10歳未満の子供を説得するかのようであった。
 上京に当たって、母は瓶詰の蜂蜜を持たせてくれた。朝、我が家の食卓には蜂蜜があった。母はそんなシーンを、東京でも再現してほしかったのだろう。
 毎日食べた物をメモった。それは私のためというよりは母のためであった。折に触れて手紙を書いたが、必ずそのメモを同封した。それを見て母は安心し、またアドバイスもくれた。
 母からの小包の定期便。中には郷土の食材と蜂蜜が入っていた。朝のパンに垂らし、料理の隠し味に使い、気分転換や気晴らしに舐めた。風邪を引くこともなく、体調を大きく崩すこともなく、4年間を無事に終えることができた。
 定期便の蜂蜜は、社会人になってからも続いた。母の突然の死。それは定期便の終わりでもあった。

 

(完)

 

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