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ミツバチと共に90年――

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蜂蜜エッセイ応募作品

七夕

チロリ

 

 日本人と言えば米である。田畑に囲まれて育った私は、根からの米食いだった。パンと言えば、学校給食で出された際に嫌 々食べる程度である。それに比べて私の家族はパン派の人間が多かった。米に合うつまみは少ないにもかかわらず、チョコだのジャムだのシュガーだのと、馬鹿みたいに甘いものばかりが冷蔵庫に詰め込まれていた。そんなある日、私の愛する醬油さしの後ろにソレはいた。冷蔵庫の片隅で、申し訳なさそうに。雑にラベルを剥がされ、腹の凹んだ状態で放置されていたソレは、人間で例えるなら決して身分の良い者ではなかっただろう。しかし、ラベルの剥がれた部分から見え隠れするその黄金の液体は、冷蔵庫内の光を一身に浴び、溢れんばかりの眩い輝きを放っていた。あの時の衝撃は、初めて滝を見たときのものに似ていた。私は醬油さしを動かし、ソレを手に取ってみた。蓋の部分には溢れ出した中身が、宝石のように固まり輝いていた。指に力を籠め、勢いよく蓋を開けた。すると、蓋と注ぎ口との間に、黄金の天の川が生まれた。ということは、蓋が織姫で注ぎ口が彦星になるのだろうか。さしずめ私は天帝といったところか。黄金の天の川から零れ落ちた流れ星が、私の手に流れ落ちた。ああしまった。何か拭くものを探そうとしたが、私の舌は無情にもその流れ星へと伸びていった。ああ、ついに出会ってしまったのか。私は机に向かって駆けだした。お茶碗に盛られた熱 々のお米の上にいた海苔を手で剥がし、彦星を上下反転させた。なだらかに流れ落ちるソレは、今まで見たどんな滝よりも仰 々しく、そして美しかった。米の大地に降り注がれる黄金は、収穫前に浴びたあの陽光なのか、それとも黄金の稲穂そのものなのか。先ほどの下品な所作を詫び、私は丁寧にその黄金を口へとエスコートした。幸せとはこういうものなのだ。
 
 その直後、机の上に流星群が降り注ぐこととなったのは別のお話である。

 

(完)

 

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