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ミツバチと共に90年――

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蜂蜜エッセイ応募作品

林の中のこと

いいむらすず

 

 実家の近くに小さな林があった。その林に入るには獣道があり近くを通るたびに「林の中には何があるのだろう」といつも思っていた。ある日、林の中から大きな帽子に面布を付けた男性が出てきたので、わたしは思わず「この奥には何があるのですか」とお聞きした。男性は「蜜蜂だよ」と言い「あんたは近くの人かね」と聞かれたので「実家が近くにあります。でも父母も亡くなり今は誰も住んでいないので、たまに来て掃除をしています」と答えた。男性は「実は蜂蜜を取り出すにはブラシに水をつけて蜜蜂がつかないようにするのだが、家から水を汲んできても足りなくなってしまう。水を貰えると助かるのだが」と言われた。わたしは「そんなことはお安い御用ですよ。実家には外にも水道があります。いつでも使って下さい」と言った。わたしは蜜蜂が近くにいること、国産の蜂蜜が身近なところで作られていることが嬉しくて喜んで承諾した。
 ある日誰も居ない実家出かけポストを開けとたん「あっ」声を上げた。蜂蜜がたっぷりと入った瓶が入っているではないか。あの男性が入れておいてくれたものだった。あれから数年たった今もそれは続いている。わたしは蜂蜜をヨーグルトをにかけたりトーストに塗ったりしていただいている。蜜蜂が元気に飛び回ってくれることが嬉しい。それは自然環境を守らねばと思う気持ちと一致し、いっそう美味しいのだ。

 

(完)

 

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