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蜂蜜エッセイ応募作品

十三ミリの魔法使い

下吹越 直紀

 

 十三ミリにも満たない小さな身体で働き蜂が一生懸命に作るハチミツは、自然界の甘美な秘密だ。
 私は二〇歳の頃に、オーストラリアのタスマニア島で小規模生産を行なっている養蜂家の一家を訪ねたことがある。祖父母の代から養蜂家を営む彼らは、ミツバチと共存しながら生活を営んでいた。彼らは、「養蜂家の仕事はミツバチが働く環境を作ることだ」と説明してくれた。
 養蜂家はミツバチたちが蜜を採取できる環境を作り、ミツバチたちは丹精込めてハチミツを作り、それを養蜂家が採取する。きれいな円を書いたような関係性で養蜂家とミツバチは共生していた。
 養蜂家の一家に、デュオンという同じ歳の青年がいた。ミツバチが大好きな彼は、小さな働き者たちに深い愛情を抱いていた。彼はとても繊細で、細心の注意を払って仕事をしていた。小さなミツバチたちが自分の手に当たらないように、一つ一つの動作にも気を使い、巣から蜂を取り出すことさえも躊躇っていたほどだ。私は彼の働く姿を見て、働き蜂に感謝の念をもつと同時に、働き蜂と同じく丹念に働く養蜂家に尊敬の念を抱いた。
 「オーストラリアは今、ブッシュファイヤー(森林火災)が酷いだろう?地球温暖化による気候変動のせいさ」
 巣箱を移動させている時に、デュオンはオーストラリアで大問題となっている森林火災の話を始めた。
 「実はミツバチたちも影響を受けているんだ。年々植物の開花時期が変わっていて、その変化にミツバチが適応できないために、ハチミツの生産量が世界的に減っているんだ。あと一〇年後、二〇年後にはハチミツは気軽に口にできる食べ物ではなくなっているかもしれない」
 デュオンは悲憤表情を湛えていた。オーストラリア人は環境問題を自分事として考えている人が多く、彼から聞いた養蜂家が直面している問題の話はとても勉強になった。
 私がオーストラリア本土へ帰る前、デュオンは収穫したてのハチミツを食べさせてくれた。養蜂家の仕事を目の当たりにした私は、申し訳なさに、内心躊躇いながら彼からスプーンを受け取った。しかし、ハチミツを口に運んですぐに温かい気持ちになった。甘美なハチミツの味は、一生懸命に働く働き蜂やデュオン、デュオンの家族の姿を思い出させてくれた。
 私たち人間は、小さな生き物を下に見てしまう傲慢な一面がある。が、十三ミリの身体を懸命に使って、豊かなハチミツを届けてくれる彼らは、厳しい自然界を生きる、尊敬するべき魔法使いなのだ。
 ごちそうさまでした。

 

(完)

 

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