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ミツバチと共に90年――

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蜂蜜エッセイ応募作品

蜜の甘さと春の味

どら焼きこまち

 

 朝、食パンを焼いて熱いうちにマーガリンを薄く塗る。マーガリンの塩味と優しい甘さが口の中で混ざり合う。「ああ、幸せだな」とそんな思いが頭の中を駆けめぐり、寝ぼけた私は陶酔する。
 平日のせわしない朝、雨の日の重い身体、まだ半分夢の中にいるような感覚、どんなときでも決して変わらない態度で私と向き合ってくれて裏切らない。そう、誰かと違って。
 熱いカフェラテが食道をつたっている最中なのに、もうパンをかじって、働き蜂達はどんな想いで毎日蜜を集めるのだろうなんて、乙女ちっくなことを考えているフリをする。そんな自称の美しい自分に酔いしれる。「そんなんだから私ってまだまだなんだ」とツッコミを入れる。こんな自分とのやり取りが始まってしまうと、忙しい朝はさらに戦場と化する。
 そう。言わば私にとってそれは、癒しの享受であると共に、戦地へと誘うトラップなのだ。もう連絡を取るのは、会うのはやめようと言うのにしつこく関係を続けようとしてくる誰かに似ている。後悔が春一番かのように心の中で吹き荒れる。また花が咲く季節になってしまったと。
 雪が溶けた季節のその一口は、その甘さは、まだ夢に期待する私に強烈な一撃を与え、現実世界へと冷静さを添えて引き戻す。「ああ、アカシアよ。あなたはずっとそばに居て。」

 

(完)

 

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