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ミツバチと共に90年――

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蜂蜜エッセイ応募作品

忘れない

光子

 

 私が幼い頃、大好きだったテレビアニメが有る。女王蜂である母親をスズメバチに拉致された、蜜蜂の少年が母親を救うべく立ち上がり、たった一人で困難な冒険を繰り広げる話である。敵に襲われ傷つくも、心強い助っ人達が現れ九死に一生を得る事もしばしば。私がこのアニメに夢中になった事には訳が有った。
 その頃、私の母は入院中だった。母一人子一人の我が家。親族は母だけ。友人達のように祖父母、叔父叔母、兄妹などいない。母が居なくなれば私は独りぼっちだ。しかし、そんな私を見かね、御近所さん、友人達のご家族が私の面倒を見て下さった。泊まりに来てくれたり、泊まらせてくれたり。皆、私に寂しい思いをさせないよう気配りして下さった。美味しい食事も頂いた。皆の優しさはとてもありがたかった。けれど、母の居ない不安感は拭いきれない。毎晩、布団の中で声を殺して泣いた。蜜蜂の少年が母を思い涙を溢す姿が自分に重なった。幸い1ヶ月たち母は無事退院した。同じ頃、蜜蜂の少年も大勢の仲間達と力を合わせ母親を救う事ができた。
 私は成長するにつれ、あの頃感じた、かけがえの無い母への思いや、親切にして下さった大勢の方々に対する感謝の気持ちを忘れている時が有る。そんな時、何処からともなく蜜蜂が現れる。蜜蜂の姿を目で追う。蜜蜂とアニメの少年の姿が重なる。そして母と親切にして下さった大勢の方々の笑顔を再び思いだす。今、私がここに立っていられるのは皆の優しさのおかげなのだ。私にとっての蜜蜂は感謝の心を忘れない為の大切な存在なのである。

 

(完)

 

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