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蜂蜜エッセイ応募作品

良薬は口に甘し

まっちゃん

 

 中学3年の春休み、私はニュージーランドに留学した。初めての海外、初めて会う人ばかり、初めての生きた英語、初めての伝わらないもどかしさと恐怖。全てのことが私にとっては初めてだった。せめてと思って、いつも笑顔を作って耐え忍んでいた。
 1か月ほどが経ち、帰国が迫ったある日、クラスの女の子に町に遊びに行こうと誘われた。少し不安はあったが、私もお土産を買いたいと思っていたところだったから、その場で約束を取り付けた。
 町で私達はアイスクリームを食べたり、ウィンドウショッピングをしたりした。相変わらず緊張の糸は張ったままで、正直、アイスクリームの味は覚えていない。冷たくて甘い、海外の味がしたのは確かだ。最後に、私達はハチミツ店を訪れた。ニュージーランドはマヌカハニーが有名だ。日本より安く購入できると知って、お土産に絶対買いたいと思っていたのだ。しかし、想像以上に種類が多く、何を選んでいいのか困ってしまった。女の子もマヌカハニーにはあまり詳しくなかった。すると、店員さんが試食を渡してくれた。それはとろりと白濁したオレンジ色をしていた。しかし、見た目とは裏腹に、口に含んだマヌカハニーはすうっと喉の奥に澄み渡っていくような、潔い甘さだった。初めて食べたマヌカハニーに私は思わず頬が緩んだ。女の子も美味しいと笑っていた。店員さんは、続けて別の種類も試させてくれた。勢いに乗ってぱくりとハニーの棒を口に放り込む。瞬間、漢方のような、明らかに健康に良いと分かる味が鼻を抜ける。その強烈さに思わず顔をしかめる。まだ棒を手にしたままの女の子は私を見てケラケラと笑った。そんなに笑わないでよと言うと、彼女は
 「だって、やっと自然体が見れた気がしたから」
 と微笑んだ。言われてみれば、いつもの緊張感はすっかり消えていた。笑顔を作らなくてもいいんだと思えた。その出来事があってからは、変に気を遣わず、クラスメイトとも話せるようになった。帰国の前日、女の子に紙袋を渡された。中にはクラスメイトからの寄せ書きと、マヌカハニーのキャンディが入っていた。私たちは顔を見合わせて、どちらからともなく泣き出した。
 飛行機の中で、もらったキャンディを舐める。トランクには甘い方のマヌカハニーが入っている。後から知ったことだが、マヌカハニーにはMGOという指標があり、それが高くなればなるほど、抗菌作用が高まり、味も薬に近くなるらしい。私たちが2つ目にもらったのは、MGOが相当高いものだったのだろう。私にはまだ、良薬と言えども甘い方がいい。今、口の中もちゃんと甘い。甘さと共に、それをくれた女の子の笑顔を思い浮かべた。

 

(完)

 

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