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ミツバチと共に90年――

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蜂蜜エッセイ応募作品

私と似ているミツバチ

千夏

 

 中学一年生のとき、宿泊旅行先で写生大会があった。
 絵を描くことは苦手だったけれど、それでも一生懸命取り組んでいた。
 描き始めて30分ほど経ったとき。
 ぶん、という羽音と共に、私の左腕に何かがついた。
 嫌な予感がする。
 おそるおそる首を左に傾けると、それはいた。
 ミツバチだった。
 ぎゃあ、と叫びたかった。けれど、人は本当に恐ろしい思いをした時、かえって声が出なくなるものらしい。
 混乱する私などお構いなしに、ミツバチは私の左腕をもぞもぞと歩き回り、すっかり離れようとしない。
 下書きをしていた私の腕はぴたりと止まり、これじゃ続きが書けない!   私は心の中で叫んだ。
 ハチが止まった腕は左。私の利き手も、左なのだ。
 少しでも動かして、怒ったハチに刺されたらたまったものじゃない。いくらミツバチでも、そのおしりの針に刺されたら痛いだろう。ぞっとした。怖い。刺されたくない。
 なるべくハチを驚かせて刺激しないように、小さな声で横で隣の子たちに話しかける。
 「ねえ、助けて。ハチがとまってるんだけど」
 「あ、そうなんだ」
 「大変だね」
 彼女たちは恐ろしいほど冷たかった。
 番号順に振り分けられた班の、たいして仲良くないクラスメイトなので仕方がない。
 そこに先生が通りかかり、私は藁にもすがる思いで声をかけた。
 「先生、助けてください。ハチが私の腕にいるんです。取ってください」
 「大丈夫よ! そんなの気にしないの! そのうちどっか行くわよ」
 なんてことだ。裏切られた気分だった。誰も私を助けてくれないのだ。
 できることなら、このハチをつまんで、クラスメイトと先生の腕の上にくっつけてやりたい。
 私はフリーズして、泣きそうになりながらハチを見つめていた。目を逸らすほうが逆に怖かった。
 ハチは、かれこれ10分以上、私の左腕にいた。そんなに居心地がよかったのだろうか。何か匂いでもしていたのだろうか。
 そのハチのおかげで、絵をかくのが大幅に遅れ、結局未完成のまま提出した。
 今思えば、ちょっと憎たらしいけれど、私と同じようにどこにも居場所がなかったのかもしれないと思うと、あのミツバチに同情してしまうのだった。

 

(完)

 

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