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ミツバチと共に90年――

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蜂蜜エッセイ応募作品

最初にぱくり

大坪覚

 

 20数年前にお世話になったお客様の家は煙草屋さんだった。仕事のことで何度も自宅に伺い、当時私は煙草を吸っていてそのたびにそこで煙草を買っていた。機嫌をとる、というよりそこでワンカートン買うと、ライターやポーチや灰皿など役に立つものがいただける上に、すごく喜んでもらえるのだった。仕事のほかに世間話をしてお互いに煙草をくゆらしながらというのも楽しかった。ある日会社帰りに煙草を買いに行くとご主人は「今日はもう上がりかい」と言われた。ええあとは寮に帰るだけです、と私が言うと「それならどう、一杯やっていかないかい」と誘われた。煙草も好きだが、お酒はもっと好きなので、はい、ありがとうございます、と言うとご主人はニコニコしながら缶ビールとグラスを持ってこられた。煙草をくゆらせて冷えたビールを味わっていると、ご主人はちょっと面白いものがあるんだよ、といってタッパーに入った、ふりかけのようなものにスプーンをさして出してくれた。ひと口ぱくりと何も気にせずに食べた。何とも不思議なカリカリと香ばしい味わいであった。これははじめて食べた味ですね、と言うともうひと口ちょっと多めにすくって食べた。「これは何ですか、体に良さそうな、素朴な味ですね」と聞いたらご主人は笑いながら「蜂の子」だよ、と言われた。「私は信州の生まれで、子どもの頃からいつも食べてたんだけど、家族は嫌がってね」「え、そうですか、私はおいしいと思いました」本当にそう思ったのだ。ご主人も本当だとわかっただろう。それから年に二度ほど、ビールと蜂の子をごちそうになっていた。その席でご主人は海軍の飛行隊の少年兵で、戦時中に負傷し足が不自由になり煙草屋さんを始めたということを知ったのだ。あんなに穏やかで笑顔のご主人にそのような辛い時代があったことに本当に驚いた。ご主人が大好きだった蜂の子も笑顔のみなもとのひとつだったのだろうと、いまでもよく思い出す。

 

(完)

 

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