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ミツバチと共に90年――

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蜂蜜エッセイ応募作品

甘い魔法は世代を超えて

ライム

 

 幼い頃からわたしは何よりお薬を飲むのが嫌いだった。体が弱く、ひとよりもお薬を飲む機会が多かったと思うのだが、それはそれは苦労した。今思えば、お薬を与える親もまた、大変だったと思う。
 ちいさい頃は錠剤はうまく飲み込めず、だから処方されるお薬は顆粒か液体だった。粉のお薬を飲むときは粉をさっと口の中に入れ、溶けない間にフルーツジュースで流し込む。苦さが口全体に広がり、いただけない味だった。液体のときも同じく、お薬を飲むとすぐにジュースや牛乳で流す。液体の場合はお薬とドリンクが混ざって、複雑な味がし、これもまたいただけなかった。
 わたしは、吐き出す、むせる、拒否するのいずれかだったので、風邪などが治るのにも時間がかかっていた。
 どうしたらいいものかと考えていた矢先、県外から母方の祖母がやってきた。そのときもわたしは風邪をひいており両親はわたしにお薬を飲ませるのに苦労していた。
 「今日はりんごジュースで行く?」
 「いや、ヨーグルトはどう?」
 「ちょっと待てよ。趣向を変えて、味噌汁なんてどう?」
 ひそひそ話をしていたが全部まる聞こえだった。幼いながらに今回はどんなフレーバーなのか毎回想像し、そのたびに顔が歪んだ。
 遠方からやってきた助っ人の祖母はまず、母、つまりは祖母の娘も幼い頃お薬を飲むのが苦手だったと話した。そのときの対処法が、はちみつだったと言うのだ。当の本人である母はまったく憶えていないということだった。
 祖母は、せっせと粉のお薬をスプーンにのせ、その上にはちみつを垂らし始めた。
「きれい。おばあちゃん、これ、なあに?」
「これは、なんでもおいしくなる魔法の液体。おばあちゃんが大阪から持ってきたの」
 え? はるばる大阪から? うちのキッチンの戸棚で見かけたのは気のせいだろうか。まだ幼稚園だったので、その辺のごまかしはきいたようだ。
 飴色にも黄金色にも見える輝く蜜に、思わず幼いわたしはため息をついた。
 「ほら、甘いよ」
 そう言って、祖母はまずはちみつだけを舐めさせてくれた。
 甘さが口の中にあるうちに、祖母はお薬とはちみつを混ぜたスプーンをわたしの口に運んだ。不思議とわたしは嫌がらずに自然に口を開けた。
 「ごくり」
 「どう?」
 「うん、いける」
 おいしいでもなく、大丈夫でもなく、「いける」と答えたことがなぜか大人たちの間ではツボにはまったようで、今も笑いと共に語り継がれている。
 そして時は流れ、弟の娘たちもまた、お薬嫌い。同じ作戦は奏を功を奏し、世代を超えて、我が家のシンプルだがかけがえのない魔法となっている。

 

(完)

 

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