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蜂蜜エッセイ応募作品

我が家の守り神

田久保ゆかり

 

もう半世紀以上も前のことで、あの風景はもしかしたら外国の絵本の中で観たのかもしれないと思うほどだ。
我が家の台所の窓辺にはママレモンなどの洗剤を乗せてあったが、その左端にずんぐりとした瓶を2本並べてあり、白濁した塊が入っていた。
得体の知れないその瓶の中身を尋ねたこともなかったが、何やら大昔からそこにある台所の守り神の様な佇まいであった。
それが蜂蜜と知ったのは大人になってからで、我が家は知り合いの農家から毎年蜂蜜を買っているのだと言う。その当時は近所にスーパーマーケットなど無く、朝獲れた魚や牡蠣を売りに来る人もいて、ほとんどのものを地元で手に入れていたのだ。しかし、蜂蜜を食べているところや、南国の夏に溶けているところを見たことがなく、いつも白濁して鎮座している記憶しかない。
ある冬、母が「ひとつ持って行きなさい」と帰省していた私に言った。私は少し迷惑だと思いながらも、大きな瓶を新聞紙で包み、着替えなどと一緒にボストンバッグに入れ下宿に持って帰った。ひと匙舐めて「これは甘いわ」と思いつつもそのままになっていた。だが月末に小遣いがなくなった時、ふと思い出しお菓子代わりに蜂蜜を舐め、故郷や母を思って少しだけ寂しくなった。不思議とその冬は風邪をひかずにすんだ。そのことを母に言うと、母も農家の方に「娘が好きで」と嬉しそうに電話をして、帰省の度にひと瓶の蜂蜜を貰って帰るのが恒例となった。
蜂蜜を買ってくれる母もいなくなり、今の住まいのキッチンにも蜂蜜を置いているが、スーパーに求めるそれはプラスティック容器の中でいつも飴色に溶けていて、どうみても守り神の風情ではない。

 

(完)

 

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