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ミツバチと共に90年――

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蜂蜜エッセイ応募作品

十人十色の味

空明凜

 

 「あんた1アウトだもんね」
 母がハチミツを食べる時、決まって私に言うセリフだ。
 私は幼い頃、ミツバチに一度刺された事があるため、「蜂毒によるアナフィラキシー症状」の事を言っているのだろう。蜂に2回目以降刺された場合、一回目よりも強いアレルギー反応を示し、その反応が強かった場合、生死に関わるような危険な状態に陥る事もあるという。だから私は、1アウトというわけだ。
 このセリフを聞くたびに、私は「ハチミツを初めて食べた人」について考えてしまう。
 襲い来る蜂に立ち向かい、痛い思いをしながらはちみつを採取したのは間違いない。もしかすると、村の掟で「ハチミツを採取出来たものを成人として認める」とか、「幻の甘い液体を採取した者に褒美をやる」とか、そんな事があったのかもしれない。様 々な想像は膨らむが、少なくともハチミツが希少なものだったのは間違いないだろう。
 
 現在は百貨店に行けば、ハチミツは簡単に手に入る。私たちの遠い祖先が味わった痛みや、甘味に対する渇望を、時間と文明が解消した結果だ。
ハチミツもより質が良く、より多く採取するための工夫もされている事だろう。
 しかし、ここでまた私は、母の「1アウト」発言を思い出すのである。
 物事には「経験者にしかわからない」という事象が存在する。
 人間は現在までの経験や知識と、それらによって形成された価値観により、それぞれに異なった感覚や感情を抱く生き物である。
 であるならば、蜂に刺された私と、蜂に刺されていない母のハチミツの味は同じではないはずだ。遠い昔、痛い思いをしながらハチミツを手に入れた人と、簡単にハチミツを入手する現代の人では、ハチミツの味もまた違うはず。
 この世界には、私のように蜂に対して嫌な思い出がある人、我 々に代わってハチミツを採取してくれる人、蜂を研究する人、蜂を育てる人など、様 々な蜂体験があると思う。それと同時に、それぞれのハチミツの味があると思うのだ。

 

(完)

 

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