み ・カミーノ
“Are you OK? This is good for your throat.”
友人の1人、ブラジル人の彼女が差し出したのは飴色の小さなボトル。 PROPOLISという文字の横に、蜂の写真。
イガイガする喉を何度も鳴らしながら、私はボトルを見た。おそらく私は、怪訝そうな表情をしていた。【なにこれ?】と顔に書いてあったんだろう。
「蜂蜜みたいなもの。喉の痛みによく効くのよ。スプレーするだけで大丈夫。あなたにあげる。いつもお世話になってるから」
彼女は英語でそう言うと、パチンとウィンクをした。
大丈夫かな、これ?
半信半疑の私に、彼女はその“プロポリス”とやらを半ば押し付けるような形で握らせた。今から25年ほど前のことだ。
初めて聞いた“プロポリス”という単語と、人を刺しそうな蜂の写真。ボトルを振ると、トプトプと音がした。
私の生活圏内では一度も見たことのないボトルに、謎の液体が入っている。成分表には難しい名前がならび、何が入っているのかさっぱり分からない。インターネットのない時代だから、調べようもない。“喉の痛みによく効く”という彼女の言葉を信じるしかなかった。
家に帰り、もう1度ボトルを眺める。蓋を開けてクンクン匂いを嗅ぐ。甘い香りと、今まで嗅いだことのないような刺激臭。
これ、ほんとに大丈夫?
すぐに蓋をキュッと閉めた。
夜になり喉の痛みはひどくなった。カサカサを通り越し、ガッサガサだ。恐る恐るプロポリスに手を伸ばす。
この匂いさえ我慢すればいいか。自分を納得させ、口を大きく開けた。
シュッ!喉めがけてスプレーを押す。
ジワー。ん?なんだかあったかいぞ。
濃密な液体が喉を湿らす。トロリとした甘さが喉全体に広がった。意外と美味しい。ボトルの蜂を見たらすごく効くような気がしてきて、そのまま布団に入る。
次の朝目覚めると、喉の痛みはなくなっていた。まるで魔法だ。プロポリスをひと吹きしただけなのに。彼女の言うとおりだった。
「あなた、なかなかやるわね」
私は飴色のボトルの蜂を指でなぞった。
(完)
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