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蜂蜜エッセイ応募作品

銀鏡の蜂蜜と蜂の子そうめん

松元詩歩子

 

 天然の蜂蜜は小さな瓶に入ったものでも三千円はする。そんな話を聞いたのは私がまだ小学六年生のときだった。十一歳の私は親元を離れて宮崎県の西都市の奥地にある、銀鏡地区へ山村留学をした。銀鏡は西都市内からも車で一時間もかかり、九州で最大級のダムを抜け、ひたすらくねくね道を進んだ先にある、雄大な山紫水明が望める秘境だった。急峻な山 々が紺碧の空を突き抜け、深緑色の澄んだ川は途切れることなく流れていた。「もののけ姫」の主題歌を歌った米良美一さんも銀鏡地区と同じ東米良の出身であり、銀鏡そのものが「もののけ姫」の舞台になりそうな、奥深い山間の集落だった。
 里親さんの玄関に大きなレモンカラーの樽があったので質問すると「山で採れた蜂蜜が入っている」という返事をもらった。聞くところによると、今では少なくなった日本蜜蜂がせっせと拵えた貴重な蜂蜜なのだという。天然の蜂蜜は腐ることはなく、「気温が下がると結晶化するのが特徴だ」と里親さんは教えてくれた。高値で売り買いされる、純度百パーセントの天然の蜂蜜は、その樽の中で白い結晶を作って固まっていた。玄関には芳醇な香りが漂っていた。
 銀鏡にはまだ蜂にまつわる、かなりユニークな食べ物があった。里親さんの食卓に「蜂の子そうめん」が並んだとき、そのグロテスクな蜂の子を見て、私は手が震え、箸も掴めなかった。ましてはその汁さえも飲めなかった。また、この辺りでは大人の雀蜂を佃煮にして、焼酎のつまみにする風習もあり、これが癖になるほど美味だという。この「蜂の子そうめん」は全国放送で放映されたこともあり、お祝い事には欠かせない逸品だ、と紹介されている。
 蜂蜜を舐めると私は子ども時代の原点である銀鏡を思い出す。いつか、グロテスクな蜂の子も食べられる日がやってくるだろうか、と思いながら、今日も私は蜂蜜をヨーグルトにかけるのが楽しみだ。

 

(完)

 

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