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ミツバチと共に90年――

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蜂蜜エッセイ応募作品

瓶の中には

デグー

 

 「いやー!ごめんなさいー!」
 4歳のいとこが悲鳴を上げた。
 「よしよし、もういなくなったから。ちゃんと片付けなさい」
 祖父がにやにやしながら、背後に何かを隠した。
 「うん、わかった」
 泣きべそをかきながら、彼女はおもちゃの片づけを始めた。祖父の家に遊びに来たいとこは帰りたくないと駄 々をこね、おもちゃを部屋中に散らかしていた。お母さんが叱っても、おばあちゃんがなだめても効果なし。大人たちが困り果てたときに立ち上がったのが祖父だった。戸棚の奥から何かを取り出したかと思うと、瞬く間に4歳児を諭してしまった。祖父が持っていたものは、わたしにも見覚えがあるものだ。
 
 「ほら、悪い子のところには蜂が来るよ。お母さんの言うことを聞きなさい」
 5歳の頃だったと思う。母の言うことを聞かずに走り回るわたしの前に、祖父が大きな瓶をぬっと突き出した。中に何かがいる…。はち…?
 「いやだー、あっちいってー!」
 わたしは泣きながら母の腕に飛び込んだ。母と祖父の笑い声が聞こえる。オレンジ色と黒の縞模様、太くて長い触角。祖父が持っていたものはスズメバチの焼酎漬けだった。焼酎の中に、大きなスズメバチがぎっしりと入った珍しい一品。生きている蜂ではないと知っていても、その見た目はショッキングだ。小さい子の目には、さぞ怖いものに映ったに違いない。
 
 スズメバチの焼酎漬けは孫全員が通ってきた道だ。そのせいだろうか、我が家でハチと言えばミツバチではなくスズメバチなのだ。祖父の強烈なお仕置きも、今ではお気に入りの思い出話。蜂を呼ぶよ!って言うと、さっといい子になったわね、母は笑う。
 
 「すごく健康にいいんだぞ、ちょっと飲んでみるか」
 「知ってる!でも無理!」
 祖父は楽しそうに笑う。成人したわたしも、祖父の前ではまだ小さな子どもなのかもしれない。

 

(完)

 

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