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ミツバチと共に90年――

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勇者の武器

勇者

 

 絶対に風邪をひいてなるものか。
 数年前より、私の決意は固かった。就活があるから、バイトを休めないから、そんな理由ではない。風邪をひくと、この世で一番不幸な人間になったような気がするからだ。喉の痛みは唾を飲み込むたびに絶望を与える。風邪をひく度に、私はこんなに日常的に唾を飲み込んでいたのかと日頃の習慣を憎んでしまうほどに。
 
 風邪を憎む私の周りには敵が多い。
 体調が悪そうな人間も沢山乗車する満員電車での登校。
 インフルエンザが流行る時期にもマスクはつけさせて貰えない接客アルバイト。
 そして、そんなバイト先で一日十時間近く仕事をして疲労による免疫力の低下。
 
 そんな私には風邪予防の為に徹底した武器が二つある。
 一つは、“入念な手洗いうがい”。基礎にして最大の防具といえよう。
 しかし、この防具をもってしても、どこからか魔の手(風邪)は迫ってくる。
 その訪れは実に静かだ。
 少しの喉の違和感。物を咀嚼して飲み込む瞬間に不意に感じるイガイガとするあの感覚。
 この違和感を軽視してはいけない、決して。
 風邪の初期症状の訪れを感知した時、私は二つ目の武器を取りだす。
 それが“金柑のはちみつ煮”だ。手洗いうがいが敵の攻撃を阻む鉄壁の盾だとすれば、これはまさに至高の剣。喉の痛みに効く消炎作用や殺菌作用、疲労回復効果のあるはちみつ。さらに金柑による粘膜の炎症を抑える効果で、喉の痛みを薙ぎ払う。
 日頃の防御は勿論の事、敵が牙をむいた時、こちらも剣を出し対抗する必要がある。

 スーパーで買った大量の金柑をよく洗う。金柑のヘタを取り、小さな切れ込みを少しいれて、鍋で湯がく。アクを取ったら、竹串を刺して少しずつ種を取り出す。そして、金柑を鍋に戻し、好きなだけはちみつを入れてコトコトと煮込む。
すると、黄金に似た輝きを放つ金柑のはちみつ煮が完成するのだ。

完成したものを口に放り込むと、はちみつの優しい甘みとさわやかな金柑の香りに、なんとも言えない満ち足りた気持ちになる。これを口に入れた者は皆、確信するであろう。
この戦いに勝った……と。あたたかな紅茶、緑茶、何にでも合う。金柑のはちみつ煮にお湯入れて飲むのも良いだろう。
この武器は、幾度となく私や家族、身の回りの人間を救ってきた。
いや、むしろ私の為に作ったはずであるが、勝手に父親が食べている事が圧倒的に多かった。毎日夜遅くまで働いていた彼が健康的に毎日出社が出来ていたのは、私の打った剣を携えていた為だったのかもしれない。
今のご時世、尚の事いっそう、決して無理はしてはいけない。
体調管理は万全に。そして、宝石の様に輝く金柑のはちみつ漬けという武器を携えつつも、あのはちみつのやさしい甘さに癒されながら生きようと、今日も私は金柑を湯がく。

 

(完)

 

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