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蜂蜜エッセイ応募作品

甘いリップクリーム

神島新治

 

 もう随分と昔の話になるが、私は幼稚園から小学生くらいまで、冬になると唇がよく荒れた。荒れたというよりも、ボロボロと言った方がよいくらいのひどさだった。表皮は何度も剥けて薄くなり、しゃべったり笑うと割れてしまう。ご経験のある方は、この痛さと煩わしさに深くうなずかれることだろう。
 当然、そうなるとリップクリームをぬるのだが、当時は薬用しかなく、塗ると割れ目から染みてとても痛い。とはいえ塗らないと、やっぱり痛いままだ。この悩ましい状況が続くと気になってしまい、無意識に、しょっちゅう唇を触っていた。
 そんなある日、パートから帰ってきた母が、頻りに口元に手をやっている私の行動に目を留めた。「どうした?痛いんか?」そう尋ねる母に私は、「うん、痛い」と素直に答えた。「そうか、痛いんか」。母は少し思案したあと、食器棚を開けてハチミツの容器を取り出す。「これ塗ってみ」。母は指先にハチミツを少し垂らすと、そっと私の唇に塗り付けた。べたべたとして最初は気持ち悪かったが、塗ってみると、口を動かしても唇が割れることはなかった。それからは自分で塗るようになり、ついつい舐めてしまっても、粘度があるせいか、しっかりと潤いは残っていて、以前ほどは気にならなくなった。
 幼い時にハチミツに慣れ親しんだせいか、コーヒーや紅茶を飲むようになっても、砂糖ではなく、自然とハチミツを使うようになった。喫茶店など外で飲む時は、普通、ハチミツなど用意されていない。そんな時はクリームだけ入れる。そして家ではハチミツを入れる。不思議なことに、そうしても違和感は覚えなかった。これはきっと、「甘いリップクリーム」の呪縛がそうさせるのではないだろうか。そんな気がしてならない。

 

(完)

 

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