松岡雅子
みかちゃんは、小学一年生になって初めてできた友達。名簿順でも私が前、背の順でも私がみかちゃんの前だった。
みかちゃんの家は、小学校の前の道を左に
私の家は反対、右に行かなければならず、いつも校門を出たところで「さよなら」をしなければならなかった。学校が終わってもまだまだ一緒に遊びたい私たちは、お互いの家から真ん中あたりにある蜂蜜やさんの前で待ち合わせることにした。
「いつもの場所ね」
「うん わかった」
二人の合言葉のようになっていた。
ある時、みかちゃんがいつもより少し遅れてきたことがあった。
蜂蜜やさんのガラス越しに私は、花の名前の付いた大きな容器を眺めていた。少し濃い色をしたものや薄い黄色がかったものが、6種類ぐらい並んでいたように憶えている。
木枠のガラス戸が、ガタガタと開いて、お店の中からおばさんが出てきた。顔をガラス戸に押し付けていたからだろうか。
「舐めてみる?」試食用らしき小さなスプーンが入った小さなコップを差し出してくれた。
「どうぞ」
何だか恥ずかしい気持で、きっと小さな声でお礼を言うのが精いっぱいだったと思う。
みかちゃんは、私立中学に通うことになったので会うこともなくなったが、短大生の頃アルバイト先が蜂蜜やさんの先だったこともあり、よく母に頼まれて蜂蜜を買って帰った。子供の頃には気が付かなかったが、お店の裏庭にはたくさんの箱があった。
それから何十年も経ち小学校の近所のお店も変わっていた。
つい最近のこと、気が付いた。
ガラス戸の向こうに蜂蜜の容器が6個並んだお店がそのままあった。
(完)
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