渡辺 碧水
蜜蜂は、触角だけを使って美しい六角形の巣を造る天才建築家一族だと思う。
蜜蜂の巣は巣房(沢山の小部屋)で構成される。各巣房は、蜂蜜などを貯蔵したり、幼虫などを育てたりするのに使われる。
いずれにしても、広いに越したことはない。広ければ、蜂蜜を多く貯えておけるし、幼虫を伸び伸びと育てることができる。
造巣担当の働き蜂にとって、その作業は大変な労力を必要とする。
巣房は蜂蜜からできる蜜蝋を使って造られる。働き蜂は食べた蜂蜜を原料として自身の体内で蜜蝋を造り、腹部の蝋分泌腺から体外へ搾り出す。働き蜂は、その蜜蝋を自身の脚で延ばしながら巣房の壁を造る。
一グラムの蜜蝋を作るのに、何とその八倍の蜂蜜を食べる必要があるとか。
働き蜂の寿命は一か月ほど。一匹の働き蜂が一生かかって造り出す蜂蜜の量は、四~六グラムほどに過ぎない。生涯造る蜂蜜をすべて使っても、蜜蝋一グラムも造れない。
採蜜担当の働き蜂は、毎日休みなく空を飛び回り、蜜源の花を探し当てて少しでも多く花蜜を集めて帰る。一群の存続のために「蜂海戦術」で花蜜を調達している。
蜂蜜は食料にも、巣の材料にもなり、蜜蜂にとって大変貴重なもの。無駄遣いをせず、コスト節減に努めなければならない。
巣造りで働き蜂は、少ない材料で、できるだけ広い巣房を造ろうとするに違いない。
実は、同じ大きさの正多角形を敷きつめる場合、平面を隙間なく埋める図形は、三角、四角、六角の三形しかない。この中で、巣房の壁の材料(蜜蝋)を最も少なくて、広い空間を確保できるのは正六角形である。
また、六角形は衝撃に強く丈夫でもある。
これらのことは、計算上でも、物理的実験でも、実際的応用でも確認されている。
蜜蜂の巣の壁は非常に薄いのだが、事実、その中に多量の蜂蜜を貯め込むことができることから、六角形のこうした構造は「ハニカム構造」と呼ばれる。
巣造り担当の時期、働き蜂は、この精緻な作業を訓練も受けずに、容易にやりこなす。
蜜蜂が天才建築家の一族だと驚嘆する所以はここにある。
(完)
蜂蜜エッセイ一覧 =>
蜂蜜エッセイ
応募要項 =>
Copyright (C) 2011-2024 Suzuki Bee Keeping All Rights Reserved.