大阪のアン
もう母が亡くなって久しいが、マヌカハニーをえらく気にっていた。私が初めてニュージーランドに出張した時、代理店の社長からマヌカハニーを2瓶もらった。帰国して、1瓶を我が家用とし、もう1瓶を母に送った。その時、マヌカの効用も書き添えた。
2か月ほどして、母から電話が入った。
「この間送ってもらった、ほら、マヌケハニーとか言うの、すごく健康にいいね。また出張の機会があったら、よろしくね」
「母さん、マヌカハニーだよ。マヌケなんて言ったら、マヌカに悪いよ」
「アッ、そうだね。マヌカだったね。ごめん、ごめん」
しかし、一旦「マヌケ」と覚えてしまうと、母の年齢ではなかなか切り替えることができない。事あるごとに「マヌケ」と言うものだから、子供たちは「ばあちゃんのマヌケ」とからかうようになった。
ご機嫌伺いに電話をした時のこと。
「今日、百貨店にマヌケハニーを買いにいったんだよ。案内コーナーで『マヌケハニーはどこで売っていますか?』って訊くと、お嬢さんは『地下1階です』ってすぐに教えてくれたのよ」
母は嬉 々として話す。
「母さん、マヌケで通じたの!?」
「えっ、マヌケでなかったっけ。なんて言うのかね」
「マヌカだよ」
「そうそう。マヌカね。売り切れで、入荷はいつになるか分からないんだって」
私は1か月後にニュージーランド出張が決まっていた。そんなに母が気に入ってくれたなら、独り暮らしとはいえども大瓶を買ってこようと決めた。
それから10日ほどして、母は事故に巻き込まれて帰らぬ人となった。私は予定通り出張に出かけ、亡き母の仏前に供えるため決めていた大瓶のマヌカハニーを買ってきた。
(完)
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