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蜂蜜エッセイ応募作品

花蜜から蜂蜜への変容(後)

渡辺 碧水

 

【花蜜から蜂蜜への変容(前)から続く】
 一方、蜂蜜は、蜜蜂が巣の中で花蜜を脱水(濃縮)させ、熟成させたもの。
 外勤の働き蜂によって集められた花蜜は、ショ糖液(水分を含んだスクロース)の状態で胃の前部にある蜜胃(蜜嚢)に貯えられ、満杯になったところで巣へ運ばれる。
 巣に持ち帰られた花蜜は、外勤蜂から内勤の働き蜂へ口移しで渡される。
 巣の中で、内勤蜂の水分を飛ばす諸作業によって、糖濃度の低い「花蜜」は糖濃度八十%前後の「蜂蜜」へと変容する。
 この生成過程は、ともすると、もっぱら内勤蜂の羽ばたきによる蒸発作業と理解されがちであるが、それだけでは花蜜の濃縮にはなっても、蜂蜜への変容は生じない。
 その作業過程で、内勤蜂は口器を使って花蜜を膜状に引き延ばし、水分を蒸発させる行為も頻繁に行う。実は、この行為が蜂蜜への変容の重要な鍵となる。
 この際に、内勤蜂の唾液に含まれる酵素(インベルターゼ、転化酵素)が花蜜に混入し、その作用によって花蜜の中のショ糖(スクロース)がブドウ糖(グルコース)と果糖(フルクトース)に分解される。
 併せて、内勤蜂の口器から、花蜜に含まれない特有の成分が加わる。それは、微量ではあるが、ビタミン、ミネラル、アミノ酸、有機酸、色素などの栄養素である。
 これらは小さい水滴にされ、六角形の巣房(巣穴)に溜められて、羽であおがれて、さらに水分を蒸発させる作業が加えられる。
 花蜜から蜂蜜への濃縮熟成は、三十四℃前後という巣の中の高温の下で、内勤蜂たちによって一体的な協同作業で行われてはじめて成し遂げられる。
 糖濃度八十%前後に完熟した蜂蜜は、余計な物が入らないように、内勤蜂が分泌する蜜蝋で巣房に「蜜蓋」がされ保存される。
 この過程には、蜜源花の違いなど、各種各様の条件が関係し、蜜蜂の労力も違うので、完熟に至るまでの時間も一晩~数日の違いが生じる。
 養蜂では、完熟を待って採蜜すること。じっくりと待つことが、豊富な有効成分を含む美味な蜂蜜を採るポイントである。

 

(完)

 

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