渡辺 碧水
蜜蜂と言えば、美味しい蜂蜜を量産する「西洋蜜蜂」を思い浮かべる。この蜂については、次のような逸話が伝えられている。
「セイヨウミツバチ」の学名は「アピスメリフェラ」で、一七五八年、生物分類学の父といわれるスウェーデンの博物学者、カール ・フォン ・リンネによって命名された。
文字どおり訳すと、学名は「蜂蜜を運ぶ蜂」、つまり、蜜蜂が花 々から集めた「蜂蜜」を運ぶことを意味する。
最初、彼は蜜蜂の特性をよく知らなかったらしく、後に蜜蜂が運ぶのは「蜂蜜」ではなく「花蜜」であると理解して、以降の出版物には「アピスメリフィカ」(蜂蜜を作る蜂)と修正し記載した。
しかし、国際動物命名規約の決まりで、先に付けた名称が優先順位をもつので、修正は適わず、最初に付けた学名がそのまま踏襲され、学界に定着し今日に至った。
この逸話が物語るように、リンネのような学者でも誤解した事柄であるから、これまで一般的に、蜜蜂が集蜜した花蜜(花の蜜)を蜂蜜と呼び、「花蜜=蜂蜜」だと理解する人が少なくなかったと思われる。
また、蜜蜂によって集められたばかりの花蜜を加熱して濃縮する処理で「蜂蜜もどき」をかつて生産していた養蜂農家の中にも、そのように理解し信じて生産性向上に励んだ人もいたのではないかと想像される。
花蜜と蜂蜜とは、物理的、化学的な性質で明らかな差異がある。
まず、花蜜から。花蜜は、植物が光合成によって葉で作った澱粉がショ糖となって花びらの蜜腺に溜まったもの。
一説によると、花蜜は、約五十五%の水分、約四十%の糖分、約五%のタンパク質やミネラルで構成。花蜜の糖分の大部分はショ糖だが、ブドウ糖、果糖も含む。
糖分濃度は花の大きさ、年数、花軸の花の並び方、土壌の空気濃度、湿度とその栄養分等の条件に大きく左右される。
花蜜は、草花の種類によって特徴が異なり、蜜の量も、同じ日でも時間帯、同じ季節でも時期によって変化する。
【花蜜から蜂蜜への変容(後)へ続く】
(完)
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