渡辺 碧水
【非加熱蜂蜜の表示(一)から続く】
中国産の「加熱濃縮蜂蜜」は、蜜蜂が花の蜜を採ってきて巣房に溜めたところを見計らってすぐに採蜜し、加熱濃縮設備で人工的に高温加熱し、短時間で水分を蒸発させて濃縮する(糖度を高める)もの。人の手で熱を加え、高温で糖度を高めた濃縮蜂蜜。
中国では、広大な大自然の中で豊富な蜜源から採れる花蜜を大量の蜜蜂を使って集め、分業体制で効率よく加熱濃縮し、大量に安価な蜂蜜を生産していた。
これは、採蜜の別の言い方「朝しぼり ・夕しぼり」の「夕しぼり」に相当する。
どちらの国が先に始めたかはつかめていないが、私個人は、窮乏食糧難の時期、日本で先に始めて、近代化を急いだ計画経済下の中国に伝えられ本格化したのではないかと、推測している。
一九六〇年代後半ごろには、中国の養蜂農家は「花を折って、ミツを奪い取る」というスローガンが生まれたと伝えられている。
いずれにせよ、二十世紀後半からの中国の輸出用蜂蜜の主要な採蜜方法だった。
低いコストで生産できたが、「安かろう悪かろう」を地でいくもので、蜂蜜の品質はよくなかった。中国産蜂蜜の悪評は、この時代から始まったのではなかろうか。
一方、国内産の「非加熱濃縮蜂蜜」は、蜜蜂が花の蜜を採ってきて巣房に溜めたものを、蜜蜂自身の羽ばたきによって時間をかけて蜜の水分を飛ばし、糖度を八十%前後まで高めたうえで、蜜蜂が巣房に蜜蝋で蓋をし、熟成させるもの。蜜蜂自身が水分を飛ばし適温で濃縮した完熟蜂蜜。
大半が小規模養蜂場で生産する国内産の場合は「非加熱濃縮蜂蜜」。
実は、この方が理に適っている。経費と手間の必要な加熱濃縮用の設備を作るよりも、ごく自然に蜜蜂が濃縮した蜂蜜を採る方が、豊富な栄養成分が損なわれず、作業上の経費も手間も不要だからである。
「非加熱濃縮」の用語は、日本で使われ続けているうちに、死語化した「濃縮」が省かれ、「非加熱」に短縮されるようになった。
【非加熱蜂蜜の表示(三)へ続く】
(完)
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