よみ
子供のころの母と作ったホットケーキ。
小麦色のほかほかの円盤の上に、冷蔵庫から出したばかりのまだ固いバターをガリガリとナイフで削る。
ふんわりと白いそれは、まるで削り氷のように繊細で、落ちるそばから溶け、独特の香りを放つ。
茶色の円盤の色がぐっと濃くなる。
そこに、黄金色のとろとろとした「はちみつ」の登場だ。
きらきらと輝く液体を少し高いところから、とくとくとまんべんなく注ぐ。
円盤は甘い香りに包まれて、すべすべと滑らかな光を纏う。
まるで、魔法使いが作った秘密のシロップのようだ。
サクッとナイフを入れて、一口より少し大きめに切ったそれをフォークでぐっと刺し、大きく口を開けて無理やり頬張る。
じゅわーっと口に広がるはちみつとバターの何とも言えない甘みと香り。
休日の優しくて穏やかな時間。
毎日食べられるわけではないそれは、子供ながらに贅沢品と感じていた。
大人になって自分で「はちみつ」を買える今になっても、選ぶ時は熟考する。
安すぎるものは抵抗がある。
でも高すぎたら買えない。
甘みは自然な感じがいい。
香りは爽やかなものが好き。
くちどけはサラッとしたものも良いが、口にねっとりと残るものも捨てがたい。
我儘を言えばキリがない。
でも大切な思い出の特別なものだから、こだわりは捨てられない。
情けない話だが、未だに「はちみつ」の味の違いが明確には判らない。
あかしや?そば?どういう味の違いがあるのだろう。なんの食材や料理に合うのだろう。
色んなものを、食べ比べてきたわけではない。知識と経験不足だ。
今までは、お財布と相談して買ってきた。それが何の花からとれているのかまでは、着目していなかった。
私もだいぶ大人になって、少しは余裕も出てきた。
そろそろ自分好みの「はちみつ」を見つけるために、いろんなものを試す贅沢をしてみても良いのかもしれない。
きっとそれは、食いしん坊な私の人生を、より豊かで素敵で、楽しいものにするに違いない。
(完)
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