渡辺 碧水
【「女王蜂」という呼称(一)から続く】
つい最近、異色の養蜂研究者として知られる山口喜久二氏の連載「ミツバチにまつわるお話」を読んでいると、この呼称に関する興味深い話がでてきた。
山口氏によると、古代では「女王蜂」はオスだと信じられていたので、「キング(蜂王)」と呼ばれていた。
紀元前四世紀に、古代ギリシアの哲学者アリストテレスによって書かれた研究書『動物誌』が有名であるが、第五巻第二十一章には蜜蜂のことが記述されている。
「蜂王の幼虫は、濃厚な蜂蜜に似た淡黄色のやわらかなもので、このものから蛆が生まれれば、蜂王も生まれる」と記されている。(「濃厚な……もの」とはローヤルゼリー〈王乳〉のことで、それが蜂の「王」になると、一般に信じられていたようだ)
幼虫は最初、目に見えないほど小さく、ローヤルゼリーに満たされた「王台」の中に浮いているような状態なので、ローヤルゼリーが蜂王になると信じられていたのであろう。
長い歴史を経た後、十六、七世紀の劇作家ウィリアム ・シェークスピア(一五六四~一六一六年)も、著わした多くの傑作の中で蜜蜂をたびたび登場させているが、人間社会と同様に見立てて、統率者を「キング」と表現している。
この時代に至っても、まだメスだとはわかっていなかったようだ。
蜜蜂の「キング」がメスだと最初に公言したのは、イギリスのバトラーで一六〇九年だった。日本では、このことについてほとんど知られていない。
新たに調べて得た情報の一端も加えておきたい。
チャールズ ・バトラー(一五七一~一六四七)は、傑出した多彩な才能の持ち主で、イギリスの作家 ・聖職者 ・養蜂家等として知られる。中でも、蜜蜂のコロニーが王蜂(キング ・ビー)によって統率されているという従来の捉え方を根本から覆し、一六〇九年の著書『女性君主制』の中で、女王蜂(クイーン ・ビー)に率いられるとの新見解を示し、世界に普及させた。このことで、彼は養蜂史上「イギリス養蜂の父」と言われるようになった。
【「女王蜂」という呼称(三)へ続く】
(完)
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