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ミツバチと共に90年――

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蜂蜜エッセイ応募作品

マッチ棒の幸せ

大阪のアン

 

 「兄ちゃんん、3時頃から母さんは出かけるよ」
 原っぱで遊んでいると、弟が飛んで来て言った。
 「どこへ?」
 「PTAの会合があるんだって!」
 「じゃ、3時には帰るから」
 そのまま草野球を続けた。
 
 蜂蜜は貴重品だった。週に1,2回、朝の食卓に出された。スプーンに半分ほどの蜂蜜を母がパンに垂らしてくれた。そのとろけるような甘さが、すっかり気に入ってしまった。でも一回のみで、それ以上はもらえなかった。全員に行き渡ると、「また今度ね」と言って、母はどこかに隠してしまうのだった。戦後の物のない時代だったので、こうでもしなければ、次はいつ手に入るか不安だったのだろう。
 
 ある時、台所の母から声がかかって、踏み台を運んだ。何をするんだろうと見ていると、それに乗って、戸棚の上の方から食器を下ろした。その時、奥の方に蜂蜜の瓶が見えた。
 「あそこに隠しているんだ!」
 思わず小声に出してしまった。
 「何か言った?」
 「いや、何も!」
 慌てて口に手をやった。
 
3時に帰ると、弟は踏み台を用意して待っていた。戸棚から取り出して、食卓の上に置いた。
 「いいか、マッチ棒の先につけて舐めるんだぞ」
 まず私がやって見せた。口の中で甘さが広がった。弟も真似る。
 「兄ちゃん、甘いね」
 一回だけにしておいた。母が留守になると、これが二人の楽しみとなった。この秘密は、ばれることなく中学を卒業するまで続いた。

 

(完)

 

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