しずく
はちみつ座。それは、はちみつを心から好きな人の夜空にのみ輝くとされる幻の星座。
わたしのおじいちゃんとおばあちゃんは養蜂場で働いている。このおとぎ話のような話を聞かされたのはおじいちゃんとおばあちゃんからだ。わたしがまだ幼稚園生の頃の話。当時のわたしはその話を完全に信じきっていた。その日は夏休みでおじいちゃんたちの家に泊まることになっていたわたし。夜になって布団にくるまったものの、はちみつ座のことが気になってそわそわして眠れなかった。おじいちゃんたちはぐっすりと眠っている。わたしは二人を起こさないようにそーっと布団から出て、外に出た。頭上には満点に輝く星空。田舎の山奥なので都心では見ることのできないような星も瞬いてはっきりと見えた。昼の話を思い返す。
「はちみつ座ってどんな形をしているの?」「見ればすぐにわかるさ。だから見た者にしかわからないのじゃ」
夜空を見上げてみる。しかし、それというものが見当たらない。わたしはおじいちゃんおばあちゃんが作るはちみつが大好きだった。だから絶対にわたしにも見れると心の底から思っていた。この自信が、後に家族の間で語り継がれる、『はちみつ座事件』に繋がるとは考えもしなかった。
見えないからって諦めるようなことはしなかった。きっとこの場所が悪いんだ。もっと高いところに行けば見えるかもしれない。そう思ったわたしは、夜、一人で山のてっぺんを目指して歩き始めたのであった。しかし、体力もない幼稚園生が山頂までたどり着けるはずもなかった。
早朝、目を覚ましたおじいちゃんとおばあちゃんはわたしがいないことに気が付いて慌ててわたしの両親に電話した。駆け付けた両親が捜索することものの3分でわたしは見つかった。
自分ではものすごく遠くまで行っていたつもりだったのだが、家から数十メートル行ったところの木陰にもたれかかって眠っていたのだという。
結局この日わたしは、はちみつ座を見ることができなかった。
大人になった今でもまだ見ることはできていない。そもそもそのような星座をネットで調べても出てこない。あの日、初めてのおじいちゃん家のお泊りでわくわくしていたわたしに話してくれた嘘だったのかもしれないし、もしかしたらおじいちゃんとおばあちゃんは本当にはちみつ座を見たことがあったのかもしれない。その真偽を確かめることは今はできないけれど、あの日の記憶はとても楽しかった思い出として胸に刻まれている。
(完)
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