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ミツバチと共に90年――

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蜂蜜エッセイ応募作品

慟哭

 

 蜂蜜の香り。あの子の香り。
 
 私があの子の顔を思い浮かべるとき、いつも何処からか蜂蜜の香りが漂って来る。甘いのに切ない香り。
 数年前、あの子は私の家の家族になった。真っ白な毛並みの中にところどころ混じる、まだらな黒灰色のトラ模様。ご飯をあげると喜んで、本当はお腹が空いているはずなのに、自分が食べるよりも先に私の体の周りをぐるぐると回ってすりすりしながら、身体中で嬉しさを表現しているような子だった。まるで、「ありがとう」と言ってくれているかのように。足のとても速い優しい子だった。
 その後、交通事故で生死の境を彷徨うという苦難を味わうことになったが、それを父猫譲りの強さで見事に克服した。後遺症を抱えてはいたが再び元気な姿を見せてくれた。でもその矢先、不治の病があの子を襲った。頑張って、頑張って、今度は…もう頑張る事は出来なかった。別れは余りにも早く訪れた。
 亡くなる数日前のこと。その日私は、家族と訪れた出先で父の食事の必需品のアカシアの蜂蜜を選んでいた。その地方でしか味わえない特産品として紹介されていた蜂蜜に惹かれ、その香りを嗅いでいた時、母の携帯電話が鳴った。留守中にあの子を預かって頂いていた病院から、あの子の状態が悪いという知らせ。それから数日後、あの子は天に昇っていってしまった。
あの子ともっと一緒に居たかった。まだまだ一緒にしたいことがあった。今も後悔ばかりが残って、声をあげて泣いてしまいたくなる時がある。
 アカシアの蜂蜜を目にする度に、あの時の香りが、大切な切ない想い出とともに蘇っては、胸が締め付けられる。もう決して嗅ぐことの出来ないあの子の香り。甘い甘い蜂蜜のようななあの子の香り。きっと何年経っても忘れる事はないだろう。

 

(完)

 

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