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ミツバチと共に90年――

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蜂蜜エッセイ応募作品

スズメバチと私

あむ

 

 私は、幼い頃蜂蜜をあまり食べる事はなかった。
 家ではパンケーキを食べる時、大抵バターをつけていたし、食パンに蜂蜜をかけた事は一度も無かった。
 初めて蜂蜜を食べたのは、小学三年生の夏頃であった。
 夏休みに入って祖父の家に行った時、台所を覗いてまず目に入ったのが蜂蜜だった。私は目が悪いのだが、その時は眼鏡を掛けていて、生 々しい程にその有様が見えてしまった。
 大きな瓶に溢れんばかりに入った蜂蜜。
 その真ん中に窮屈そうに入っているのは大きなスズメバチ。
 顔を真っ青にして祖父に駆け寄ると、祖父は豪快に笑い、こう言った。
 「生きてないから大丈夫だよ。」
 でもその時の私はそれどころではなかった。
 ただただスズメバチが怖くて、怯えていた。
 もしかしたらまだ生きてるんじゃないか。
 瓶の中から飛び出して襲い掛かってくるんじゃないか。
 その日は一日中怖くて、ベットに籠もっていた。
 次の日台所に向かうと、もうそこに蜂蜜はなくて。
 それを確認してホッとした時の脱力感は今でも忘れられない。
 
 その日の朝には蜂蜜が小さなコップに薄められて出てきた。
 スズメバチは入っていなかったが紛れもなくあの蜂蜜だ。
 思い切って口に入れると、スズメバチが入っていたなんて嘘のように美味しくて、夢中で食べた。
 その日から私は蜂蜜が好きになったが、それと同時にスズメバチが嫌いになった。
 しかし最近は「もしかしたらスズメバチも蜂蜜欲しがっているのではないか」と思うようになり、自分だけ食べるのもなんだか嫌になった。
 あの時見た蜂蜜の中に入っていたスズメバチは、蜂蜜が欲しかったから命をかけて人間と戦ったのだ。
 私は戦ってもいないし、命をかけている訳でもない。
 それでも、今日も私は蜂蜜を食べる。
 ある日はホットケーキにたっぷりのせ、ある日は食パンにつけて。
 いつも口には蜂蜜の甘ったるさが広がり、何故か心には苦 々しさが残る。

 

(完)

 

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