阿部桃花
大学生になって、漠然とした不安を感じるようになった。将来は大丈夫か、何が好きなのか、就職は出来るのか。
そう煮詰まって、何も出来なくなっていた私に「自然に触れた方がいい。」と、父は半強制で山へ連れていった。父は、陽気で、小難しいことは嫌いな豪傑な人。私は父と二人きりになりたくなかった。こんな悩みなど、笑って吹き飛ばせるような人である。だからまともにとりあってもらえないと思っていた。
夜になって、2人で火を囲った。少し肌寒くて、シュラフにくるまりながら星を見ていた。「どうした。」と父は尋ねた。笑われるのではないか、と怯えながらも、私はぽつりぽつりと不安を話した。ただ一言、「そうか。」と残し、父は多くを語らなかった。星がチラチラと光り輝いていた。
帰り道、本当に小さな道の駅で、お土産を見ていた。ご当地のお菓子をお会計に出すと、父は「これも」と言って、手作りのパッケージの、小さい瓶をお会計に出し、支払った。「俺はよく分からないけど、お前なら大丈夫。これは応援代。」と言った。それは、小さい頃に好きだ好きだ、もっと買って欲しいとよくねだった蜂蜜だった。父は、私を励まそうとしてくれていたのだ。そう思うと、その小さな蜂蜜が、とても愛しいもののように思えた。
蜂蜜は残り少なくなった。将来はどうするか、まだ何も決まっていない。けれども、この蜂蜜が無くなる頃には、また新しい自分になれる。そんな気がするのだ。
(完)
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