かぼす
「これ、いつもよりもきっと美味しいから飲んでみてね。」
久しぶりに帰った実家は、たちまちコーヒーの香りに包まれた。節分の時期に帰省した私のため、母がコーヒーを淹れてくれていたようだった。
母が入れるコーヒーはいつも美味しかった。自分でも淹れるが、配合が僅かに違うのか、何度試してもあの味にはならない。
“いつもよりおいしい“との言葉が気になりつつも、冷えた足を炬燵に入れ、体が温まるのを待った。見た目はいつものコーヒーだ。変わったところはないように見える。
口にすると、ほんのり甘く感じた。砂糖の量が多いのか?それとも砂糖を変えたのか?と考えているうちに、イガイガしていたのどが潤ってことに気付く。
「風邪気味でしょ?おいしい蜂蜜をいただいたから入れてみたの。味分かる?」と、テレビを眺めながら母は呟く。
風邪とは伝えていなくても、会ったらすぐに分かるものらしい。疲れていそうだからと蜂蜜をたくさん入れたようだった。
夕方のテレビニュースが部屋に響く。母は多くは話さなかった。早く風邪を治してね、体にもいいからね、話したいことも聞きたいこともきっとたくさんあるのだろう。私を心配する思いを蜂蜜に込めたのだろう。
そう思うと先ほどよりもコーヒーがより甘く感じた。
次は私が母に作ってあげよう。溢れんばかりの感謝の思いと同じだけの蜂蜜をたっぷりと入れたコーヒーを。いつもよりもきっと甘くて美味しいはずだから。
(完)
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