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ミツバチと共に90年――

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蜂蜜エッセイ応募作品

心待ちのハニートースト

星 暖庵

 

 その小さなbarを初めて訪れたとき、
 マスターが常連とおぼしき男の客に声を掛けた。
 「今日、トーストできるよ」
 男の目が輝いた。
 「ほ、ほんと... ?」
 それからほどなく、トーストがカウンターに置かれ、
 追って小さなディップ皿が添えられた。
 それをひとちぎり小皿へ浸して頬張った男の表情を
 私は隣から横目で覗いていた。
 男の目がまた大きく輝いた。
 マスターが目を細めて言った。
 「焼いて浸すだけのトーストなんだけどね」
 
 なかなかやらない品、しかも他の客に供されたものを、
 初訪問で頼むのは、日頃厚かましい私もさすがに気がひける。
 心残りのまま、その日は店を後にした。
 次からの訪問の折りにつけ何度か尋ねてみたが、
 望み叶わず半年ほどが過ぎた。
 
 ある日マスターとジンの話をした。
 稀少な、生産が終っている、今あるボトル限りのやつがあるから、
 それをジン ・トニックでと薦めてくれた。薫りがいいという。
 そしてマスターは笑みを浮かべた。
 「今日、トーストできますよ。そのジンにあうと思います」
 
 前と同じくトーストと小皿が並べられた。
 器の中では、薄く削がれた白トリュフ一片を浮かべたハチミツが、
 まばゆく透きとおった黄金色に艶めいている。
 その光景に不思議とクレオパトラをイメージさせられた。
 
 眩しく魅惑的に光るハチミツにトーストを浸して頬張る。
 そのとき私の目も輝いていたに違いない。
 
 それからマスターは教えてくれた。
 「このトーストは全ての素材が素晴らしいから、
 ただ焼いて浸けるだけでも素敵な一品が成立するわけで。
 逆に言えば、調理がシンプルだからこそ素材の差が味の差になる。
 だから、パンもトリュフもハチミツもこだわってるんですよ。
 まあ、私は料理人ではないので、これは素材頼みの一品という訳です」
 
 半年後にはまた機会があるのだろうか。
 そうだ、この心待ちのトースト、
 「クレオパトラ ・ハニー」なんてネーミング、どうかなマスター。
 
 次の逢瀬はいつも待ち遠しい。
 特に美女とのそれは。

 

(完)

 

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