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ミツバチと共に90年――

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蜂蜜エッセイ応募作品

はちって走る

アルト山本

 

 トローンとした蜂蜜を頭の上にとぐろを巻いてみた。頭皮感覚では味はわからず、プーンと甘い匂いだけ感じる。それから目や鼻にも蜂蜜は入り込んでいく、まるでカブト虫の幼虫が体に入り込んでいくようだ、逆に口から蜂蜜が出てきたりして、自分の体がワンダーランド化していきます。ああ人間でなくなる一瞬に、自分の体は蜂蜜色に変わる、光り輝くのです。舞台の演歌歌手のように。そうこうしているうちに、近所のネコが近寄ってきてハチミツ王子の私にスリスリしてくる。そしていきなりカブリつく。ネコのアゴの力はこんなにも強いのかと体を食べられながら、思うのであります。ハチミツ王子は一巻の終わりなのです。存在していても存在していない。ただ蜂蜜の匂いだけがあたり一面に漂い始めました。けむに巻くとはこれがズバリと言えるほど実体のない私がいます。ハチミツに溶けた私は海へ流れていきました。これで人生の節目がきたと思いきや、渡り鳥がはちみつでドロドロの私を見つけてくちばしで加えて助けてくれました。いや、助けたわけではなく、小鳥たちのえさにするためです。食べないでと懇願しましたが、食べられました。小鳥たちのおいしかったと笑みは見れなかったのですが、小鳥であっても満足して頂けて本望だと本当に思った気持ちにうそ、偽りはありませんでした。そんな暑い夏の日にみた夢世界でした。

 

(完)

 

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