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ミツバチと共に90年――

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蜂蜜エッセイ応募作品

父のスプーン

齋藤 直美

 

 ゆらゆらした湯気の味噌汁の横には、炊きたてのご飯とのりの佃煮。色鮮やかな桜でんぶと甘い卵焼きもある。子供の頃の朝の定番だ。甘いもの好きの私は、あの頃も甘いおかずが最高で、それが並ぶ朝は、スキップしながら食卓に向かった。
 見つかる前に早く食べようと、椅子を引いた。しかし、私の気配を察知した父の方が早く、右手に蜂蜜を、左手に冷蔵庫から出した極小スプーンを持ち、駆けつけた。
 「ほら、ご飯前にこれを舐めなさい」
 あぁ、今日もだめだったか。食後なら、「おなかいっぱい」と逃げ出せるのに。
 諦めて目を閉じ、でもかすかに開きながら、口を開ける。父が極小スプーンに入った白い少量の液体を蜂蜜スプーンに混ぜて浮かべ、口に差し込んでくる。酸っぱい。「おいしいだろう」と父は言うが、苦いどろっとしたものが喉を通り過ぎた。これがおいしいなんて、パパは舐めたことがないんだ。毎朝の苦行なのにと私は心の中で文句を言った。それから、ぎゅっと目を閉じつばを飲み込んで喉の掃除を終える頃には、味噌汁の湯気はもう消えていた。
 かつて、私は丈夫な少女ではなかった。欠席も多く、肺炎で3回入院し、電信柱のようにひょろひょろと青白かった。
 心配した父は「身体に良さそう」なのもを色 々探し、生ローヤルゼリーが効くと聞いてきた。40年以上も前のこと、高級品のローヤルゼリーは若夫婦には高い買い物で、それでも娘のためと自分達の試飲分さえ惜しんで与えた。だから、小スプーン一杯の蜂蜜では生ローヤルゼリー特有の不味をごまかせないことを知らなくて当然だった。
 私は元気に成長し、今では仕事と子育てに邁進している。たまに実家に帰ると、好好爺になった父は「これまずいよな」と言いながらローヤルゼリーを舐め、青汁でそれを飲み干している。私と同様病弱な子供だったという父の、孫と遊ぶ姿は果敢だ。その姿にあやかり、私もまた朝のローヤルゼリーをと思っている。

 

(完)

 

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