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ミツバチと共に90年――

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蜂蜜エッセイ応募作品

魔法のナポリタン

安岡ハル

 

 「明日はおばあちゃんの家に行くよ」
 小学生の頃、母親にそう言われると心臓がビクンと跳ねた。家から車で十分のおばあちゃんの家は、私の大好きな場所だった。
 
 「あそこには、魔法のナポリタンがある」
 一歳年上の姉とささやき合いながら、おばあちゃんの家に向かう。
 
 「ねえ、お昼ご飯は、何が良いかねえ。」ラジオが正午を知らせると、おばあちゃんは決まって尋ねる。私たちは声を合わせて叫んだ。
 
 「ナポリタン!」
 
 ふふっ。おばあちゃんは笑いながら冷蔵庫を開け、ケチャップやベーコンを出し「言うと思ったよ」と目を細めた。
 
 「じゃあ、ちょっとだけ宿題進めなさい」
 
 はーい、と気もそぞろに居間に戻る。手に鉛筆を持つものの、一分もしないうちに、シャーという油の音色。そしてベーコンと玉ねぎがキツネ色になる匂い。ノートを開いて鉛筆を持ったまま、台所の方ばかりを見ている。
 
 (ジュー)
 
 その音に姉が振り返る。
 
 「ジューは、多分ケチャップの音だよ!」姉は教えてくれた。甘酸っぱい、胃が動くような香りが咲く。これが、出動の合図だ。すっと立ち上がる姉の後ろを忍び足でついていく。バレないように台所の茶色い扉を小さく開け、真横から盗み見る。
 
 魔法の時間だ。
 
 おばあちゃんが火を止め、棚の蜂蜜に手を伸ばす。
 
 ごくん。唾を飲み込む。
 
 金色のトロリとした液体が具材の上で円を描く。おばあちゃんがフライパンを三回返す。キラキラの赤い具材が宙を舞い、最後に茹でたてのパスタが乗る。
 
 「お二人さん、もうすぐですよ。手を洗って」
 
 私たちは、居間から駆けつけたことになるよう5秒だけ数え、扉を開ける。そして、おばあちゃんの魔法を知っていることを洗い流すよう、いつもしっかり手を洗った。
 
 さて、今日のランチは、私がその時盗んだ、特別甘い「魔法のナポリタン」だ。
 
 「あたしね、ナポリタンだいすき!」
 
 調理台の上がまだ見えず、そわそわする幼稚園生の娘。私はニヤリとしながら、十八年前に知った魔法をかける。これで栄養いっぱいだ。だから早く大きくなって、あなたもこの魔法を盗むんだよ。

 

(完)

 

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