甘党大学生
「おつかれさま。」
この何気ない一言を聞くと、ある思い出が、はちみつの甘い味とともに蘇る。
高校3年の冬。受験戦争まっしぐらの時期だ。
当時の私は、自分の学力よりも遥か上の早稲田大学を目指し、夜中まで生活のすべてを勉強に費やした。朝は7時に起き、朝ごはんを食べながら、英単語の暗記。学校に行く電車内では、古文の暗記。そして、夜中3時までひたすら過去問題集の演習。
そんな、勉強漬けの毎日を送っていた。
そんな私を陰ながら支えてくれていたのは、母だった。
毎朝、私より早く起き弁当作り。夜は私が寝るまで、寝ない。
母は2年前に乳がんが発覚。抗がん剤治療により、弱っているにもかかわらず、私をずっと気遣っていてくれた。
私は、なんとかして母に喜んでもらいたいと、より一層勉強に熱が入った。そんな母が、深夜12時になると出してくれる飲み物があった。
それはホットハニーミルクである。
深夜にもなり、勉強で頭がいっぱいになっている私を想って、母が作ってくれるホットハニーミルクが、大好きだった。
トントンと、母が部屋のドアをノックする。
ガチャっと部屋のドアが開くと、はちみつの甘いにおいとホットミルクの優しいかおりが、私を誘う。
勉強に集中していた私は、ようやく母の存在に気が付く。
「おつかれさま。」
と母がつぶやく。
「ありがとう。」
と一言返すと、熱いホットハニーミルクを口に含む。
この甘さ。
まるで、ふわっふわの羽毛布団に包まれてるかのように、心が、体がリラックスする。
「じゃあ、がんばってね。」
それだけ言うと、母は部屋を出ていく。
そして、私はまた、机に向かう。
他人からすれば、何気ないひと時かもしれない。
しかし、私にとっては、母のやさしさからできたホットハニーミルクが、受験の原動力であり、どんな応援よりも私を鼓舞した。
おかげで、早稲田大学に合格することができた。
なにより嬉しかったのは、母親の泣いて喜ぶ姿が見れたことだ。
受験は苦しいものである。
しかし、私は受験生を見るたび思い出す。
あの甘いにおい。
そして、優しい一言、
「おつかれさま。」を。
(完)
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