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蜂蜜エッセイ応募作品

蜂蜜大根できるから!

日菜

 

 「喉痛……」
 小学5年生の頃だ。薄暗い部屋で布団にくるまり、もう何度目か分からない咳を繰り返す。いつもは「学校なんか面倒くさい!休みたい!」と言いながら嫌 々行くものだが、治らない喉の痛みに比べたら、学校の方が幾分マシだったと痛感する。
 「しんどいよーお母さん」
 がすがすになった声で母を呼ぶと、台所から駆け寄ってくれた。
 「ほら、もうすぐ蜂蜜大根できるから!」
 「蜂蜜大根!?なにそれ……」
 蜂蜜に大根って。聞いたことないし、不味そうだ。甘いものと野菜とかありえない。
 「咳と喉にすっごく効くねん」
 母はお構いなくコップに蜂蜜大根シロップを注いでいく。待って、勘弁してくれ。
 「いや、いい……いらない……」
 母には申し訳ないが私は全力でNOを示した。
 「あっ!今不味そうって思ったやろ!」
 「そりゃそう思うよ!別 々で食べたいわ!」
 と言いつつももうほぼ完成しているらしく、細かく切られた大根は蜂蜜にインしている。手遅れである。
 しかし母がせっかく作ってくれたのである。このまま残すのも勿体無い。一回ぐらい飲まなきゃ失礼だろう。
 ごくん、と飲んでみると喉の奥にじんわりと甘さが広がった。
 「えっ……美味しい!」
 「そうやろ?喉の痛みも和らぐし、蜂蜜には殺菌作用があるからなあ、紅茶に混ぜても美味しいねんで」
 知らなかった。蜂蜜ってこんなにすごかったんだ。甘くて美味しくて、風邪にも効くなんて最高だ。
 その後、すっかり喉の痛みも治った私だけど、そのまま蜂蜜を紅茶に混ぜるのが日課となった。
 
 *
 あれからどれぐらいの年月が経っただろう。当時小学生だった私も高校生になって、何度目かの冬が来た。今年も風邪が流行っているらしく、家でも部屋の隣でくしゃみの音がする。
 「うう……風邪気味かな、なんか喉痛い……」
 ドアを開けると母はけほけほと咳を漏らし、苦しそうに布団を被っていた。
 あの時母が言ってくれたあの言葉。今度は私は言ってみた。
 「ほら、もうすぐ蜂蜜大根できるから!」

 

(完)

 

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