八田裕也
「ゆう君も小学生になったから、トイレは一人で行こうね」
お母さんは言いました。
「夜でも?」
ゆう君が聞きました。
「夜もだよ。小学生は幼稚園よりも大人だからね」
お母さんはそう言います。でも、ゆう君は夜のトイレが怖いのです。
「おばけが出たらどうしよう」
お母さんがついてきてくれないとわかると、ゆう君は急に不安になってしまいました。ちょうど今日、おばけが出る絵本を読んだばかりです。
「おばけは出ないから大丈夫だよ」
そう言われても、ゆう君は、おばけが絶対に出ないと思えませんでした。
「ぼく、もうトイレ行かない」
ゆう君は言いました。おばけに会うくらいならトイレなんて行きたくありません。
「じゃあ、お母さんがまほうの飲みものを作ってあげる」
そう言ってお母さんは、はちみつ湯を作ってくれました。スプーン一杯のはちみつをお湯にとかし、すりおろしたしょうがを少しだけ入れると完成です。
「おばけは、はちみつがきらいだから、これを飲んでから行けばおばけに会わないよ」
ゆう君は一口飲んでみました。ほどよい甘みが口の中に広がります。おいしくておかわりしたいくらいでした。飲み終えるとおなかがポカポカして、力がわいてきます。
「お母さんここで待っていてもいい?」
ゆう君は力強くうなずきます。
一人でトイレに行くのはゆう君にとって冒険のようでした。でも、夜もおばけももう怖くありません。
「一人で行けたよ!」
おしっこをすませてお母さんのもとへ戻ると、お母さんはえらいねとほめてくれました。ほめてくれたけど、まほうのはちみつ湯のおかわりはもらえませんでした。
その日から、ゆう君は、一人でトイレに行けるようになりました。本当はちょっぴり怖いけど、はちみつ湯を飲むと心の中まであったまる気がして勇気が出るのです。
(完)
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