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蜂蜜エッセイ応募作品

初恋と蜜蜂

ろぺち

 

 外から子供たちの笑い声が聞こえる。そのせいか、今朝の蜂蜜入りヨーグルトはほろ苦かった。
 小学生の頃、大好きな女の子がいた。初恋だ。小3の夏に、その子が転校することになった。転校までには時間がない。ましてや子供には、プレゼントを買うだけのお金もない。なにより告白するなんて勇気はみじんも無かった。僕が精一杯頑張って贈れる物はなんだろう。
 そうだ。四葉のクローバーを、押し花のようにして贈ろう。それを持っていてくれれば、その子は幸せになってくれる。そう思って、僕はクローバー畑をはいずりまわった。しばらく探し続けていると、「チクッ」と指に痛みが走った。蜜蜂に刺されてしまったのだ。幼い僕にとっては、蜂に刺されたことは一大事。無我夢中で家に帰った。今となっては、その痛みはそこまで大げさなものではなかったと思う。それでも「あの子ともう一度会うまでは死ねない」くらいの気持ちで、痛みに耐えていた。
 結局、女の子に四つ葉のクローバーを渡せなかった。幸せを願って探したクローバーだけれど、蜜蜂に刺されて諦めたなんてとても言えなかった。
 今になってわかることだ。蜜蜂は、一度その針で外敵を刺してしまえば死んでしまう。僕の淡い恋心とは比べ物にならない、命をかけて守るべきものへの愛情をその蜜蜂は持っていた。
 そう思っていると、蜂蜜はほろ苦くはなくなっていた。今僕は蜜蜂が注ぐ愛情を分けてもらい、ありがたく口にしている。
 初恋は酸味が効いているけれど、その思い出を包み込むような甘い優しさを、蜜蜂の愛情が包んでいる。今朝の蜂蜜はいつもと違う。どこか繊細で懐かしい味がした。

 

(完)

 

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