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蜂蜜エッセイ応募作品

蜂蜜の神さま

おぎわら じゅんこ

 

 蜂蜜には神さまがいらっしゃるのだと祖母は言った。
 
 古い台所で瓶詰めの蜂蜜を片手に、祖母は私の耳元でささやいた。
 「風邪をひいたら治してくれるし、とっても栄養がある。パンケーキにたらすと、たちまち甘くなるんだから」
 幼い私はうんうんとうなずく。
 そうか、蜂蜜には神さまがいらっしゃるのか。だからあんなにとろりと甘くてきれいな金色なのかと、子ども心に思った。
 
 そして私はここぞという大事な時に、祖母にティースプーン一杯の蜂蜜を舐めさせてもらった。
 テストの日の朝や、風邪をひいた日の夜。
 蜂蜜はいつも甘くて、神さまごと私の喉の奥に溶けていくようだった。
 
 祖母が亡くなった春の日も、私は蜂蜜を舐めた。
 何も食べる気がしなくて、けれども蜂蜜なら喉を通る気がした。
 いなくなってしまった祖母を思い、泣きながらティースプーンを口につっこんだことを覚えている。
 蜂蜜は甘く優しく、けれども少ししょっぱかった。神さまが一緒に泣いてくれたのかもしれない。
 
 大人になってからようやくわかった。
 蜂蜜には殺菌作用の他、色んな健康効果があること。祖母はそれらを『神さま』と呼んでいたらしい。
 
 そして今、母になった私は、そっと子どもたちに秘密を打ち明ける。
 「蜂蜜には神さまがいるんだよ」
 子どもたちは目を真ん丸にして、瓶詰めの蜂蜜をじっと見つめる。
 きっと蜂蜜の神さまは、色んなところで子どもたちを助けてくれるだろう。
 テストの朝や、風邪の夜。あるいは三時のおやつのパンケーキで。
 そして大切な人との別れの時に、共に泣いてくれるのだろう。
 
 蜂蜜は今もここぞという時に私を助けてくれる。
 神さまが流した涙のような、とろりと甘い金色の瓶詰め。手にとって蓋を開ける。
 とろりと揺れる水面に、ふと神さまが笑った気がした。

 

(完)

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