さーもん
鏡を見ながら、はちみつを唇に塗った。誰にも見つからないようにこっそり台所から持ち出して自分の部屋へ運んだ。まだ何の化粧品も、リップクリームすら持っていない頃だった。
はちみつを塗ってパックすると、つやつやの美しい唇になると友達から聞いたので、さっそく試してみることにした。夜遅い時間だったので、悪いことをしているような気持ちとうきうきした気持ちが混ざり合い、不思議な高揚感があった。
母のお気に入りのはちみつは、綺麗な深い黄色で、重くて高そうな瓶に入っていた。母はよく紅茶にはちみつを入れていた。はちみつ入りの紅茶はどんな味がするのだろうと気になっていたけど、私は紅茶が苦手だったのでわからないままだった。はちみつの瓶は母によって食器棚の1番上の段に仕舞われていたので、私が取り出すには椅子にのぼる必要があった。
瓶の中から透き通ったはちみつを指ですくい、薄く唇に伸ばしてみる。鏡の中の唇はまさにつやつやで、ほんのりはちみつの甘い香りがして、私はなんだかうっとりしてしまった。10分後、はちみつを拭き取ってパックは完了する。乾燥するから絶対にはちみつを舐めとってはいけないと言われていたけど、甘い匂いの誘惑に我慢できなくなって、結局時間が経たないうちにすべて舐めてしまった。家族が寝たあとに行われるこのはちみつのパックは、私のひそかな秘密だった。本当に効果があったのかはわからないが、私ははちみつのパックを続けた。きらきらした自分の唇を見るのが嬉しかったし、なにより最後にはちみつを舐め取る瞬間が幸せだったのだ。
(完)
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