りん
「随分久しぶりね。余りにもご無沙汰過ぎて、大事なお嫁さんの顔も忘れかけてたわ」
相変わらずの厭味で、一年ぶりに夫の実家に帰省した私を出迎えた義母。
初対面の時から苦手だった、皮肉屋で辛口のこの義母が。だから極力、帰省を避けてきたのだ。なのに、今日から二泊も同じ屋根の下で過ごすなんて憂鬱過ぎる。
…はあっ。心の中で重い溜息を吐いた瞬間、
「ちょうど南瓜を煮たところだから、ゆかりさん、味見してよ」
義母に台所へ強制連行された。
「どうぞ」と、皿に盛られた南瓜の煮物を差し出され、
「頂きます」と味見した。南瓜はちょうど良く煮込まれ、ホクホクとおいしい。
……でも、何だろう、このまろやかな甘さは。砂糖とは違う、優しいコクのある甘さ。あっ、もしかしてーー
「これ、蜂蜜が入ってますか?」
「あら、よく分かったわね」
義母は意外そうに目を見開きつつも、嬉しそうに笑った。
…珍しい、義母が私に笑顔を見せるなんて。
「子供の頃、風邪を引くと母がよくハチミツレモンを作ってくれて、そのせいか、今でもハチミツを食べると元気になれる気がして、毎朝、ハチミツトーストを食べてから出勤してるんです。ハチミツは私のパワーフードなんですよ!」
「優しい、いいお母様ね。私も翔が幼い頃、風邪を引くとハチミツ生姜レモンを飲ませてたわ。健康のために、うちでは砂糖の代わりに何でも蜂蜜を使ってるの。…なーんだ、気が合うじゃない」
私を見る義母の眼に親近感が浮かび上がる。
嫁と姑を取り巻いていた緊張感がふわりと和らぐ。
実母のことを褒められ、自分が褒められるよりも嬉しい気分になった。
思わず調子に乗って、もう一口、二口と南瓜を食べ続けた。
「味見なんだから一口でいいのよ!もう、食いしん坊ねえ」
お決まりの皮肉を言われても、もう気にしない。
だって、その辛口の奥には、蜂蜜のように金色に煌めく甘い優しさが込められているって、今なら思えるから。
結婚して二年。やっと私も、この家族の一員になれた気がした。
(完)
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