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ミツバチと共に90年――

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蜂蜜エッセイ応募作品

ハニーマザー

りん

 

 「随分久しぶりね。余りにもご無沙汰過ぎて、大事なお嫁さんの顔も忘れかけてたわ」
 相変わらずの厭味で、一年ぶりに夫の実家に帰省した私を出迎えた義母。
 初対面の時から苦手だった、皮肉屋で辛口のこの義母が。だから極力、帰省を避けてきたのだ。なのに、今日から二泊も同じ屋根の下で過ごすなんて憂鬱過ぎる。
 …はあっ。心の中で重い溜息を吐いた瞬間、
 「ちょうど南瓜を煮たところだから、ゆかりさん、味見してよ」
 義母に台所へ強制連行された。
 「どうぞ」と、皿に盛られた南瓜の煮物を差し出され、
 「頂きます」と味見した。南瓜はちょうど良く煮込まれ、ホクホクとおいしい。
 ……でも、何だろう、このまろやかな甘さは。砂糖とは違う、優しいコクのある甘さ。あっ、もしかしてーー
 「これ、蜂蜜が入ってますか?」
 「あら、よく分かったわね」
 義母は意外そうに目を見開きつつも、嬉しそうに笑った。
 …珍しい、義母が私に笑顔を見せるなんて。
 「子供の頃、風邪を引くと母がよくハチミツレモンを作ってくれて、そのせいか、今でもハチミツを食べると元気になれる気がして、毎朝、ハチミツトーストを食べてから出勤してるんです。ハチミツは私のパワーフードなんですよ!」
 「優しい、いいお母様ね。私も翔が幼い頃、風邪を引くとハチミツ生姜レモンを飲ませてたわ。健康のために、うちでは砂糖の代わりに何でも蜂蜜を使ってるの。…なーんだ、気が合うじゃない」
 私を見る義母の眼に親近感が浮かび上がる。
 嫁と姑を取り巻いていた緊張感がふわりと和らぐ。
 実母のことを褒められ、自分が褒められるよりも嬉しい気分になった。
 思わず調子に乗って、もう一口、二口と南瓜を食べ続けた。
 「味見なんだから一口でいいのよ!もう、食いしん坊ねえ」
 お決まりの皮肉を言われても、もう気にしない。
 だって、その辛口の奥には、蜂蜜のように金色に煌めく甘い優しさが込められているって、今なら思えるから。
 結婚して二年。やっと私も、この家族の一員になれた気がした。

 

(完)

 

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