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ミツバチと共に90年――

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蜂蜜エッセイ応募作品

祖父と私とはちみつと

ゆきんこ

 

 私の祖父の元気の元は蜂蜜だった。
 祖父は私の小さい頃から朝食の後は毎日生卵にお酢と蜂蜜を混ぜて飲んでいた。幼い私はよくそのおこぼれを貰いに祖父の膝に上っていた。お箸に少しつけてくれてそれをなめる。それが祖父母の家に遊びに行った時の私の特別だった。
 祖父のその習慣は私が大きくなってからも続き、祖父は90近くなっても元気いっぱい。親戚の中で、長生きのコツはこの蜂蜜卵だと真似する人たちが増えていった。祖父の蜂蜜信仰の出来上がりである。もちろん教祖様は私の祖父。
 残念ながら私は成長とともに生卵をそのまま食べることが苦手になり。おこぼれを貰うこともなくなった。それでも、声を使う仕事をしている私は冬になると声がでなくなることが多く、それをよく知る祖父から冬になると蜂蜜が届く。とっておきの蜂蜜を私用に別に取っておいてくれて、声が枯れてくるとくれるのだ。それをお湯に溶いたり、そのままなめたりしているうちに声が出るようになっていく不思議。きっと蜂蜜には、祖父の優しさも溶けていたのかもしれない。
 そんな祖父も近年亡くなった。亡くなる頃には何も口にできなくなっていて、私はそれを見るのも辛かった。病気一つせずにここまで来た祖父が、病気でもなく急に倒れた。そんな祖父の口腔ケアに孫一同で選んだ薬は蜂蜜味。何も食べられなくなった祖父がうれしそうに笑った顔が忘れられない。祖父にとって蜂蜜は元気のもと。それとともに、私たちとの思い出の味でもあったのかもしれない。もちろん、私たちにとっても蜂蜜は祖父との思い出の味。幸せの味だ。
 祖父がいない今、冬になると蜂蜜専門店に行って自分蜂蜜を選ぶ。丁寧に丁寧にはちみつを選んで寒い夜に毎晩いただく。祖父との思い出を思い出しながら。涙がこぼれることもあるけれど、思い出すのは優しい優しい思い出ばかり。
 私にとって蜂蜜は祖父との思い出そものもだ。

 

(完)

 

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