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ミツバチと共に90年――

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蜂蜜エッセイ応募作品

私だけの

森山ほたる

 

 彼からの初めてのプレゼントは、手のひらサイズの瓶に入った蜂蜜だった。丸みを帯びた瓶は蓋の部分がきゅっと締まっており、正面には一匹のミツバチが刻印されている。口の部分に巻かれた細めの赤いリボンが華やかさを醸し出し、上品で可愛らしい。
 しかし、寒さと自身が計画したデートの不発により不機嫌になっていた私にとって、そのサプライズは気分を逆なでするものだった。
 「蜂蜜だよ。色 々探し回ってる時にこれを見つけて、君にぴったりだと」
 受け取った小瓶を見て、一ヶ月記念のデートを必死に計画し準備してきた自分がなんだか馬鹿らしく思えて、言葉を発することができなかった。
 
 重苦しいコートを脱ぎ捨ててベッドに倒れ込む。あの後どうしても気分が上がらず、結局予定していた映画をキャンセルして早めに解散した。その時でも彼は笑顔を絶やさないで、また会おうねと手を振っていた。新調したパンプスで踵が痛み、帰りの電車で重みが増したバッグを抱え、少し泣いた。
 何か飲もうと冷蔵庫を開けると牛乳を見つけて、あの蜂蜜を思い出す。蓋を開けて覗いてみると、金色の深海が広がっている。持ち上げて光にかざしてみると、深かった色は宝石のように瞬き、ミツバチの刻印が光を乱反射させて私の脳内へと入り込む。先ほどまでの気分が嘘のように、引き込まれている自分がいる。そっと小さなスプーンですくい上げ、温めた牛乳に溶かし入れると、牛乳は大きく湯気を上げ、まるで蜂蜜を歓迎しているようである。
 ふう、と息をつき、口をつける。口の中にじんわりと広がる甘みが、赤子がおくるみに包まれるような安心感と包容力を感じさせ、自分をなだめているよう。ふとテーブルに置かれたスマホを見ると、彼からのメール、文末には「今、会いに行くから」の文字。
 蜜を与える君と、待っている私。甘みの増す最後の一口を飲み干し、私は脱ぎ捨てたコートを羽織った。

 

(完)

 

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