渡辺 碧水
【蜂蜜(?)インクが登場(前)から続く】
間違えて、なめるおそれは十分にあり得る。特に、小さい子どものいる家庭では保管に細心の注意が必要だろう。
この点の配慮には、私には少なからず懸念を抱く。食卓で書き物をする機会が多いのが一般家庭だから。
ふと、子どもの時代を思い出した。
小学生のころ、鉛筆をなめなめ、宿題の作文を書いた。鉛筆は芯の質が悪く、書いていると、だんだん文字が薄くなる。そんなとき、芯をなめて唾液で湿らせることで芯の潤滑が復活して、再び濃い文字が書けるようになった。
今は死語になっているが、文字を丁寧に濃く書きたいとき、芯をなめながらゆっくり書いたことから、「考えながら苦労して書く」ことを意味する「鉛筆をなめる」という慣用句が生まれたほどだった。
隔世の感がするが、鉛筆の芯をなめたとき、香りだけでも蜂蜜の甘さを味わえていたら、もっと夢豊かな作文が書けたのではないかとの思いが募る。
同時に、芯をなめた害が身体に及んでいなかったのかと思った。どうやら、昔の粗悪な鉛筆でも、子どもが多く使うものだから、食品でなくてもなめることもあると想定して、健康被害が出ないように安全面の配慮がなされていたようだ。
話を現代に戻して、筆記用インクの種類は一千種にも達するほど豊富だが、「はちみついんく」は、注意の「もちろん」は取り下げて、今は「残念ながら」と、謙虚さを謳ってもいいのではなかろうか。
たとえ原材料に蜂蜜の入らない製品であっても、「もちろん蜂蜜仕様なので、万が一、なめても害にはならないように十分に配慮はしておりますが、…」との注意書きが示せるように改良してこそ、蜂蜜のイメージを誇る特色品らしくなるであろう。
発想の豊かさは評価するとして、わざわざ利用者に鼻や口に近づけたり、なめたりさせる誘惑を仕掛けておきながら、その被害の責任は利用者にあるとなるのなら、疑問が沸く。
蜂蜜は栄養やその他の面で非常に優れた食品である。そのイメージを利用したリスクの責任は、製作者側が負うべきと思う。万人向けの商品としては不満が残る。
(完)
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